軽い運動が記憶など司る海馬の神経の新生促す
:筑波大学/東京大学

 筑波大学は7月25日、東京大学と共同で2週間程度の軽い運動が、記憶や学習を司る海馬と呼ばれる脳の神経細胞を強化することを突き止めたと発表した。運動を続けることによって通常は精巣が分泌する男性ホルモン「アンドロゲン」を海馬が作るようになり、海馬自体の神経細胞の新生を促すという。高齢者の認知症を予防する運動療法など医療技術や新薬の開発につながると期待している。
 筑波大体育系の征矢英昭教授、岡本正洋研究員と東大総合文化研究科の川戸佳教授の研究グループが突き止めた。
運動が海馬の神経細胞の新生を促して認知機能を向上させることは、最近10年間に数多く報告されている。また、神経細胞を新生する促進因子の一つであるアンドロゲンが精巣だけでなく、海馬でも合成されることは分かっていた。しかし、神経細胞が新生する適切な運動条件や分子レベルでの新生のメカニズムは未解明だった。
 研究グループは、まず「軽い運動が海馬のアンドロゲン合成を高め、その作用で神経細胞が新生する」という仮説を立て検証を進めた。運動条件については、血液中の乳酸値と副腎皮質刺激ホルモンを指標に、運動がストレスの原因になるほど激しいものか、それ以下の軽いものかの判断基準とした。
 実験では、この基準をもとにラットに異なる強度の運動をさせ、海馬の神経細胞がどう変化したかを調べた。その結果、神経細胞の新生という点で運動ストレスを伴う基準以上の運動より基準以下の軽い運動の方が有効で、海馬の中のアンドロゲン濃度も上昇していた。精巣を摘出したラットでも同様の結果が得られた。
 このことから、研究グループは「精巣由来のアンドロゲンがなくても軽度の運動によって海馬自体が合成し神経細胞の新生を促している」とみている。今後は脳機能の維持増進や認知症の予防などの可能性を探りたいとしている。

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