殺虫性タンパク質に抵抗性もつ昆虫の遺伝子を発見
:農業生物資源研究所/佐賀大学/米国ロードアイランド大学

 (独)農業生物資源研究所(生物研)は7月6日、佐賀大学や米国ロードアイランド大学との共同研究で、昆虫病原細菌(昆虫に病気を引き起こす細菌)が作る殺虫性タンパク質(Bt毒素)に対する抵抗遺伝子の一つをカイコで突き止めたと発表した。
 昆虫病原細菌が作る殺虫性タンパク質は、特定の昆虫グループに対して殺虫性が高く、その一方で人畜に無害なところから、殺虫剤(BT剤)や耐虫性遺伝子組換え作物(Bt組換え作物)の開発に利用されている。しかし、BT剤を連続して使用すると、他の農薬と同様にBT剤に抵抗性を示す害虫が発生し問題となる。
 このような抵抗性の発達を抑える技術を開発するためには、Bt毒素の抵抗性に関わる遺伝子の究明が重要となっている。
 生物研では、保有するカイコの中でBt毒素に対して強い抵抗性を示す系統のカイコを使い、ゲノムの解析や遺伝子組換え技術を利用して、Bt毒素抵抗性遺伝子を突き止める研究に取り組んだ。
 ゲノムの解析から、Bt毒素抵抗性遺伝子は、劣勢の遺伝子で第15番染色体上にあることが分かった。次に、カイコのゲノム情報を利用したポジショナルクローニング法と呼ばれる方法で、消化管で働くABCトランスポーターという細胞膜に存在するタンパク質の遺伝子が、抵抗性に関わることが推測された。
 さらに遺伝子組換え技術を用いて調べた結果、この遺伝子のアミノ酸配列に、チロシンというアミノ酸が一つ余分に挿入されると、ABCトランスポーター遺伝子の変異により、Bt毒素感受性が低下して、カイコはBt毒素抵抗性になることを突き止めた。
 害虫でも、この遺伝子の変異が、BT剤やBt組換え作物の抵抗性に関わっていることが予想されることから、今後のBt毒素の作用の仕組みなどの研究を行う上で、重要な発見となった。
 今後は、まだ不明な点が多いBt毒素の作用の解明に迫ると共に、害虫の抵抗遺伝子の解明を進め、防除対象の害虫がBt毒素に抵抗性を持っているかどうかを、簡単にモニタリングする技術の開発が期待される。

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遺伝子探索に用いた感受性カイコ(上)と抵抗性カイコ(下)。これらを交配し、試験を行い、抵抗性遺伝子を解明した(提供:農業生物資源研究所)