昆虫の変態を抑えるメカニズムを分子レベルで解明
―変態の時期ずらす抗幼若ホルモン剤の探索に朗報
:農業生物資源研究所

 (独)農業生物資源研究所(生物研)は7月3日、昆虫の成長や生殖、休眠など様々な生理現象を制御している幼若ホルモン(JH)が、変態を抑える作用を持つ遺伝子「Kr-hl」を働かせる仕組みを世界で初めて解明したと発表した。研究チームはこの成果をもとに、幼若ホルモンの作用を阻害する抗幼若ホルモン剤(抗JH剤)の候補物質の探索法も併せて開発した。狙った害虫だけに効果があり、他の昆虫に悪影響の少ない薬剤の開発などが期待できるという。
 昆虫は、脱皮ホルモンの作用により、幼虫から幼虫、幼虫から蛹(さなぎ)、蛹から成虫へと脱皮する。幼若ホルモンは、若い幼虫の体内に多く存在し、幼虫が脱皮を繰り返しながら十分大きくなるまでは、幼虫が蛹に変態するのを抑える働きをしている。幼若ホルモンのこの作用は、60年以上前に発見されたが、その作用の分子的なメカニズムは、分かっていなかった。
 生物研の研究チームは、カブトムシの一種のコクヌストモドキから変態を抑える作用を持つKr-hl遺伝子を最近見つけ、幼若ホルモンがこの遺伝子を活発に働かせることで変態が抑えられていることを突き止めた。また、カイコでも幼若ホルモンがKr-hl遺伝子を働かせていることをつかみ、今回、カイコの培養細胞を用い、幼若ホルモンがKr-hl遺伝子を働かせるのに必要なスイッチの役割をするDNA(デオキシリボ核酸)配列(「JH応答配列」)を突き止めた。さらに、「MET」、「SRC」という2種類のタンパク質と幼若ホルモンの3つのタンパク質分子の複合体がJH応答配列に結合すると、Kr-hl遺伝子のスイッチがオンになり、Kr-hl遺伝子が働きだすことを突き止めた。
 ショウジョウバエ、ミツバチ、アブラムシなどについてもKr-hl遺伝子を調べたところ、各昆虫からそれぞれJH応答配列を見つけた。これらの昆虫はいずれもMETとSRCの遺伝子を持っていることから、変態を抑えるスイッチの仕組みは、昆虫に共通なものと考えられるという。
 研究チームは、これらの発見をもとに、幼若ホルモンと同じ作用を持つ物質や、幼若ホルモンの作用を抑える物質を効率的に探索(スクリーニング)する方法を開発した。この探索法を用いると、まだ育ち切っていない害虫の幼虫をいち早く蛹にして作物被害を低く抑える新たな薬剤の開発が可能になるとしている。

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