物質・材料研究機構(NIMS)は5月8日、オーストラリアのメルボルン大学と共同で、無機物のシリカ(二酸化ケイ素)を使った伸縮自在の新しいナノサイズカプセルを開発したと発表した。このカプセルは熱やpH(酸アルカリ度)調整で、カプセル自体や薬剤の通り道の大きさを自由に変えて包み込む薬劑の量や放出時間を調節できることから、次代の体内薬物送達システム(DDS:ドラッグデリバリーシステム)として期待される。 DDSは、がんなどの患部に薬劑を確実に送り込む手法として優れており、そのカプセルにはシリカのような無機物や脂質、ポリマーなどの有機物が使われている。しかし、無機物のカプセルは、硬くて強いが構造を臨機応変に変えるのが難しく、有機物カプセルは、柔らかくて構造調整可能だが、機械的強度に劣るのが問題とされている。DDSカプセルとしては、この両者の長所を合わせ生かすのが望ましい。 新開発のカプセルは、ガラスと同じシリカのナノ粒子を一定条件下の溶液中に置いて、ナノ粒子が次第に溶け出し、周辺にフレーク状物質(ナノシート)を析出、最終的に粒子は完全に溶け、フレークがフワフワに集まった中空の殻のカプセル構造(フレークシェルカプセル)となったもの。構造的には、安定した無機物のカプセルだが、自在に構造を調節できる、従来の無機材料カプセルには全く見られなかった特徴を持つナノフレークカプセルを生み出した。 このカプセルは、大きさが560~440nm(ナノメートル、1nmは10億分の1m)程で、殻を構成するフレークの隙間を通して薬剤が中空部分に出入りする。熱によってカプセルが膨張・収縮してカプセルの大きさが変わるので、薬剤の挿入量を制御できる。また、pH値の調整で薬剤の通り道となる殻を構成するナノシートの隙間が変化するので、薬剤挿入後に適当なpH条件で処理すれば、薬剤の放出持続時間も調整できる。実験では、これまでより数倍延ばせた。 研究者は、このような方法で患者の病状に合わせて薬劑の量や供給持続時間を自由に調節できるDDSが実現するし、カプセルには将来、薬だけでなく、DNA(デオキシリボ核酸)の取り込みも可能になるほか、カプセル表面に特定の抗体を結合できれば、特定の病的部位にだけ薬物を送り込む“ミサイル療法”も可能、という。
詳しくはこちら
|
 |
安定的で構造も制御しやすいフレークシェルカプセル(提供:物質・材料研究機構) |
|