住友林業(株)と総本山仁和寺(京都市)は4月25日、遅咲きの桜の中でも最も遅く咲き、仁和寺境内の1本以外には国内に存在しないとみられている通称“泣き桜”の苗木を組織培養法で増殖させることに成功したと発表した。
仁和寺の名勝指定内にある桜は、“御室桜(おむろざくら)”と呼ばれ、京都の春の最後を彩る遅咲きの桜として知られる。御室桜そのものは数種の品種から成り、そのうち最も遅く咲くのが泣き桜。(独)森林総合研究所などが開発した桜のDNA(デオキシリボ核酸)データベースで照合したところ、泣き桜は、仁和寺名勝指定内の各桜とも、またデータベースに収録された各品種とも明らかに違いがあり、新品種である可能性が高いことが判明したという。
住友林業の筑波研究所は昨年1月、御室桜の9割以上を占める“御室有明”の苗木を組織培養法で増殖させることに成功しており、今回は、それに続く成果。
御室桜の苗木作りは、これまで萌芽枝(株の根元などから出る小枝)の中から発根した枝を選別し、株分けをする方法をとってきたが、泣き桜は、萌芽枝をほとんど出さないことから株分けができず、それがために苗の増殖が行われてこなかったと考えられるという。また、桜の苗木は、通常接ぎ木によって増やすが、泣き桜は、樹勢が衰えているため、接ぎ木に適した状態の良い枝は、ほとんど採取できないという。
今回、筑波研究所は、組織培養法の一つである「茎頂培養法」という手法を用いて増殖させた。茎頂培養法は、芽の分裂組織である茎頂部を摘出して試験管内で培養、大量の芽(多芽体)を生産、伸長させ、これを1本ずつ切り分け培養土に植えて発根させて完全な植物体(幼苗)を得る。雑菌汚染の心配がなく、病害虫が苗に継承されないのが特徴。加えてこの方法で増殖した苗木は、突然変異が起こる可能性が非常に低いことから、泣き桜の特徴をそのまま受け継げる可能性が高いという。
泣き桜は、新品種と考えられるため、仁和寺では、培養・増殖した桜を現・四十九代門跡の名にちなみ“揚道桜”と命名したいとしている。
No.2012-17
2012年4月23日~2012年4月29日