(独)物質・材料研究機構は4月26日、2個の原子が直線状に結合する酸素分子の軸方向と磁石としての性質「スピン」の向きを指定した酸素分子ビームを世界で初めて作ることに成功したと発表した。この酸素分子ビームを当ててシリコン表面を酸化したところ、分子軸が表面とほとんど平行な酸素分子だけが酸化反応に寄与することを突き止めた。
半導体素子微細化の進展に伴ってシリコン表面に高品質な酸化絶縁膜を、より低温で形成することが課題となっている中、新技術はその有力な手法になると期待される。
酸化による生成物や反応速度は、直線状をした酸素分子の軸方向とスピンの向きで大きく異なると考えられていたが、従来はその影響を実験的に確認する手段はなかった。
これに対し、同機構の倉橋光紀主幹研究員と山内泰グループリーダーの研究グループは、酸素分子のビームを六極磁子と呼ばれる特殊な磁気回路などを組み合わせた装置を通すことでビーム中の酸素分子の軸とスピンを一定方向にそろえることに成功した。
このビームをシリコン表面に照射、表面への酸素吸着率を調べたところ、分子の軸の方向がシリコン表面とほとんど平行な酸素分子のみが表面で酸素原子に解離してシリコン原子に吸着、酸化反応を起こしていた。
シリコン半導体素子の製造では、酸化絶縁膜形成に1000℃程度の高温を利用しているが、これは酸素分子の軸の向きを指定する手段がないために高温化しないと酸化を効率よく進められないからだ。一方、高温化すると不純物の再拡散や応力発生などが生じやすく、品質確保の点で難しくなる。
No.2012-17
2012年4月23日~2012年4月29日