(独)農業生物資源研究所は12月6日、複数の病原菌に対する抵抗性を植物に付与する遺伝子をイネから発見したと発表した。これまでの調査によると、この遺伝子は2種の植物でそれぞれ2種類の病原菌に抵抗性を持たせることが判明した。1つの遺伝子で複数の耐病性を付与できることから、農薬のコストや農薬散布の手間などの低減につながる可能性があるとしている。
この遺伝子の発現で耐病性が認められたのは、イネと、アブラナ科の1年草のシロイヌナズナ。イネでこの遺伝子が活発に働くと、細菌病の一種である白葉枯病と、糸状菌(カビ)病の一種である「いもち病」に対して強い抵抗性を示すことが認められた。
一方、シロイヌナズナでは、細菌病のトマト斑葉細菌病と糸状菌病のアブラナ科野菜類炭疽病(たんそびょう)に抵抗性を示した。細菌病と糸状菌病の両方に効果があり、しかも単子葉植物(イネ)と双子葉植物(シロイヌナズナ)の両方で機能する遺伝子はこれまでほとんど知られていないという。研究チームは、「広範な病原菌への抵抗性」の英訳の頭文字を採り、この遺伝子を「BSR1」と命名した。
シロイヌナズナは、世代時間(種子を播いてから次の種子を収穫するまでの期間)が約2ヵ月と短く、遺伝子組み換えが容易なことから生物学実験のモデル植物として重宝されている。農生研は、理化学研究所、岡山県農林水産総合センターと共同で、約1万3千個のイネの遺伝子をシロイヌナズナに組み込み、約2万の形質転換シロイヌナズナ系統の集団(イネFOXナズナ系統)を作製、今回これにトマト斑葉細菌病菌などを接種し、生き残った系統を選抜してその原因遺伝子の特定に成功した。
発見したBSR1遺伝子を利用すると、飼料、バイオマス、観賞用などさまざまな作物の減農薬栽培が期待できるという。研究チームは、今後イネFOXナズナ系統を用いた選抜を継続し、イネ由来の多くの病害抵抗性遺伝子を見つけ出したいとしている。
No.2010-48
2010年12月6日~2010年12月12日