鳥類の遺伝資源の新しい保存・復元方法を開発
:畜産草地研究所/信州大学

 (独)農業・食品産業技術総合研究機構の畜産草地研究所は12月10日、信州大学との共同研究で、ニワトリなど鳥類の遺伝資源の新しい保存・復元方法の開発に成功したと発表した。
 ニワトリの胚(発生初期の組織)から精子や卵子の元となる細胞(始原生殖細胞)を採取して凍結保存することで、遺伝資源を保存する方法はこれまでもあったが、従来の技術では細胞採取後の胚の損傷が大きいなどの問題があった。
 今回の研究では、始原生殖細胞が発生の一時期に胚の血液中を循環するという鳥類に特徴的な性質に着目し、この時期の血液から始原生殖細胞を分離して凍結保存すると同時に、採血した胚自体もふ化させ、生体として維持することで、受精卵を最大限に有効活用する方法を開発した。
 研究では、茨城県から提供を受けた岐阜地鶏(天然記念物)の受精卵を使い、始原生殖細胞を採取・凍結保存すると同時に採取元となった胚のふ化に成功した。岐阜地鶏の胚88個から採血し、血液中から分離した始原生殖細胞4,662個を凍結保存した。採血した胚を継続してふ卵(卵をかえすこと)した結果88個の胚の中から25個がふ化し、うち12羽が性成熟した。性成熟した個体(鶏)は、通常の岐阜地鶏と同等の繁殖能力を持つことも確認した。
 また、始原生殖細胞と生体保存した個体を利用した岐阜地鶏の復元にも成功した。
 凍結保存した岐阜地鶏の始原生殖細胞4,662個の内、2,270個が融解後に回収され(回収効率48.7%)、これらの細胞を代理親となる白色レグホーン種の受精卵に移植した。移植した胚からふ化した中から15羽が性成熟した。さらに、これらの宿主(岐阜地鶏の生殖細胞を持った白色レグホーン種)を、岐阜地鶏の個体と交配した結果、得られた個体の中の207羽(12.6%)が遺伝的に純粋な岐阜地鶏であった。また代理親同士を交配することで、6羽の岐阜地鶏の復元にも成功した。
 新しい方法は、限られた数の受精卵を最大限に活用でき、ニワトリ以外の家禽や絶滅危惧種、希少鳥類への応用が可能で、新たな資源保存法として期待されている。
 今後の問題として、岐阜地鶏の始原生殖細胞を移植した代理親の白色レグホーン種は、白色レグホーン種自身の生殖細胞と岐阜地鶏の生殖細胞の両方を持つため、代理親同士の交配による後代には岐阜地鶏、白色レグホーン種と両方の雑種が混在すること、などがある。
 研究グループは、すでに宿主の胚の始原生殖細胞を完全に除去する方法を開発しており、今後はこの代理親作製法を応用することにより、細胞からの遺伝資源保存・再生技術をさらに向上させることを目指す。

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