(独)農業生物資源研究所は3月23日、国立感染症研究所、九州大学、富士化学工業(株)と共同で、カイコのマユに黄色の色を付ける遺伝子の一つを特定し、それが善玉コレステロールの輸送体系と極めて良く似た構造であることを明らかにしたと発表した。
カイコのマユは、カイコが桑の葉を食べる際に葉の中にある色素(カロテノイド)が吸収され、絹タンパク質産生器官まで送られることにより、白や黄色など様々な色に着色される。マユの色を支配する遺伝子の特定は、生体内のカロテノイド輸送機構を解明するための手がかりともなるが、その遺伝子はこれまで全く分かっていなかった。
今回、研究グループは、マユを黄色にするために必要な遺伝子の一つ、黄繭(こうけん)遺伝子の特定を目指した。
まず、ポジショナルクローニングと呼ばれる手法を用いて、カイコのゲノム(遺伝情報)上で黄繭遺伝子が位置する範囲を絞り込んだ。絞り込んだ範囲に、SR-B1というヒトのタンパク質に極めてよく似たタンパク質をつくる遺伝子があるのを見つけ、この類似した遺伝子を「Cameo」と名付けた。
絹産生器官におけるCameoの発現量を調べたところ、黄色いマユを作る系統ではCameoの発現量が高いのに、白いマユを作る系統ではCameoの発現がほとんどなかった。
また、遺伝子組換え技術を用いて、白いマユを作るカイコにCameoを強制的に発現させたところ、絹産生器官にカロテノイドが蓄積し、マユは黄色になった。
こうした実験などから、Cameoが黄繭遺伝子であると結論づけた。
研究グループは、今回の研究で、絹タンパク質産生器官細胞内にカロテノイドが取り込まれる際に重要な役割を果たす遺伝子を特定、その遺伝子がつくるタンパク質の構造がヒトのコレステロールの輸送体と類似していることを明らかにした。このことは、カイコのマユの着色の仕組みが、ヒトのコレステロール取り込みの仕組みとよく似ていることを示唆している。
Cameoと類似のSR-B1は、コレステロールを高密度リボタンパク質(HDL)から細胞内に取り入れる際に働く。HDLは、善玉コレステロールとも呼ばれている。
この研究で特定されたマユに色を付ける遺伝子は、新たな着色絹糸の創出のための手段となる一方で、ヒトにおける様々な疾患成立の機構を解明するためのモデルシステムにもなると期待されている。
No.2010-12
2010年3月22日~2010年3月28日