イネが窒素を利用する独自の仕組み持つことを発見
:農業生物資源研究所/理化学研究所/神戸大学

 (独)農業生物資源研究所は3月25日、(独)理化学研究所、神戸大学と共同で、イネが窒素を有効に利用するための独自の仕組みを持っていることを発見したと発表した。
 植物は、光合成(光化学反応による化学合成)で大気中の二酸化炭素(CO2)を固定して、糖やデンプンなどの炭水化物をつくる。そして、炭水化物と土壌から吸収した窒素を利用して、アミノ酸やタンパク質など様々な物質をつくる。一次代謝と呼ばれるこの仕組みは、ごく一部の例外を除いて、全ての植物に共通と考えられていた。
 しかし、今回の研究で発見した葉で働くイネ特有の酵素は、土壌中の窒素化合物であるアンモニアを利用する際に必要な炭素化合物を作る働きを持ち、その仕組みは、水田でアンモニアを有効利用するためのイネ独自のものであることが分かった。
 今回の研究では、イネの遺伝情報から一次代謝に関連する酵素遺伝子を網羅的に調べた。その結果、葉で働く「PEPC」というイネ特有の酵素をつくる遺伝子を発見した。
 PEPCは、光合成を行う生物が持つ普遍的な酵素だが、これまでに知られているPEPCは全て細胞質で働く細胞質型で、今回発見したのは主に葉で働く新しい葉緑体型のPEPCであった。
 葉緑体型PEPCの機能を調べたところ、従来の植物に必要な有機酸(炭水化合物)は光合成で得られた炭水化物から作られるという考え方とは異なり、イネは葉緑体PECEが関与する独自の有機酸をつくる経路を持っていることが分かった。
 肥料として土壌に投入された窒素は、畑作条件の所では硝酸に、水田のような水を蓄えた湛水条件の所ではアンモニアになる。イネを含むイネ属は、湛水条件での生育に適しており、栽培イネのほか野生イネも葉緑体型PEPCを持っているが、畑作物であるオオムギなどやモデル植物であるシロイヌナズナは持っていない。
 こうしたことから葉緑体型PEPCは、主要窒素源がアンモニアである湛水条件での生育に適応するための酵素であることが示された。
 植物の生産性は、光合成で炭素を取り込む能力だけでなく、窒素を利用する能力にも大きく依存している。今回発見した酵素は、光合成と窒素の利用という生産性に密接に関わる二つの過程をつなぐ重要な役割を持つことが明らかになった。この成果は、イネの生産性の向上に新たな道を拓くものと期待されている。
 この研究成果は、3月16日に米国科学アカデミー紀要(PAN)に掲載された。

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