海底堆積物の物質代謝機構を解明
:産業技術総合研究所/オーフス大学(デンマーク)

 (独)産業技術総合研究所は2月24日、デンマークのオーフス大学との共同研究で、海底堆積物の表層で微生物間の電子伝達が普遍的に機能しており、自然環境中での物質循環過程においてこの電子伝達が、物質代謝機構として重要な役割を担っていることを初めて明らかにしたと発表した。
 研究グループは、デンマークにある内湾の堆積物を用いて実験を行い、堆積物の表層における酸素や、水に溶け込んだ硫化物などの動態を調べた。内湾の海底堆積物は、陸地からの川水などの流入により富栄養化している。実験では、有機物含有量が高く、酸化層の厚さが薄い堆積物を用いた場合や、有機含有量が低く酸化層が厚い堆積物を用いた場合、堆積物上の海水に酸素が存在するか酸素が存在しない(無酸素)条件などを設けて測定した。
 この実験で、堆積物の直上の海水中の酸素濃度を変動させると、1時間以内に酸素も硫化物もない厚さが15~20mmの層が形成されることなどが分かった。
 海洋の堆積物の表層における物質循環過程の大部分は、酸化・還元反応であることが知られている。酸化・還元反応とは、電子の伝達(電子移動反応)を伴い酸化(酸素と反応して酸素の含有量が増える反応)と還元(酸素の含有量が減少する反応)の二つが相伴って起こる化学反応で、電子の伝達方法としては電子の供給側と電子の受容側の両者の直接的な接触による化学反応か、あるいは微生物細胞内(細胞膜)の電子伝達系(電子が次々に受け渡される反応系)を通じて行われる。
 また、ある種の微生物や導電性の微生物は、海洋の堆積物の間隙の水に溶け込んでいる物質(電子運搬体)など細胞外電子伝達系(EET)を通じて、細胞外の相手と電子の受け渡しを行うことができることも研究されている。
 しかし、海洋堆積物のような自然環境中の物質循環過程において、EET―微生物間の電子伝達が、物質代謝機構(生体の中で行われる化学変化のメカニズム)として重要な役割をしていることを示す直接的な証拠はこれまでになかった。
 今回の研究をまとめた論文「海洋堆積物中で空間的に隔たっている生物地球化学的過程の電流による共役」では、自然環境下の堆積物中でも微生物間での電子伝達は機能しており、物質代謝機構として重要な役割を担っていることを明らかにした。
 この研究成果は、2月25日付の英国の科学誌「Nature」に掲載された。

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