大気・海洋の変動「太平洋10年規模振動」の再現に成功
:国立環境研究所/東京大学/海洋研究開発機構

 (独)国立環境研究所は2月22日、東京大学、(独)海洋研究開発機構との共同研究で、環太平洋域における大気・海洋の顕著な変動である「太平洋10年規模振動(PDO)」の再現に成功したと発表した。
 PDOとは、日本の東方海域と、それを囲むようなアラスカからカリフォルニア沿岸(米国)、赤道太平洋域の海水面水温が10~20年規模でシーソーのように変動する現象をいう。
 その動向を客観的に表すPDO時係数が、「正」の時には日本の東方海域では低温化し、それを囲むようなアラスカからカリフォルニア沿岸、赤道太平洋海域では高温化する。また、時係数が「負」の値の時には、これと正反対になる。PDO時係数は、1997年頃に負から正へ大きく変化したことが知られているが、最近では2006年頃に正から負への反転が観測されている。
 PDOの物理的メカニズムは、まだ完全に解明されてはいないが、海洋大循環(黒潮の強さや位置など)やアリューシャン列島付近の気圧の変化、太平洋域の偏西風の変化を伴い、日本を含む環太平洋域の気温や降水量だけでなく、海洋生態系の変動にも10年規模で強く影響することが分かってきた。
 共同研究グル-プは、季節予報などに適用されている手法(大気海洋結合気候モデル「MIROC」)を応用して、10年規模の気候変動を予測するための新しいシステムを開発した。このシステムを用いて、スーパーコンピューター「地球シュミレ―タ」上で気候予測実験を行い、環太平洋域における大気・海洋の顕著な変動であるPDOの再現に成功した。今回の研究で、PDOに伴う海水温や気温などの変動を10年規模で予測できる可能性を、世界で初めて実証したことになる。
 10年規模の気候変動は、世界的な地球温暖化傾向に中期的なゆらぎを与え、そのゆらぎに地域的な違いを産み出す。この研究成果によって、10年規模の気候変動メカニズムについての理解が深まると共に、近未来(2030年頃まで)の地球温暖化傾向のゆらぎや地域的な違いに対する予測性能が向上し、「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)」(国連の下部機関)が次に発表する第5次評価報告書に大きく貢献することが期待されている。
 この研究成果は、2月2日付の「米国科学アカデミー紀要」に掲載された。

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