(独)産業技術総合研究所は1月12日、東京大学、(独)科学技術振興機構(JST)と共同で、磁性を持った2種類の原子(または分子)が一次元的に積層した結晶構造を持つ物質は、それら原子(または分子)間に働く磁気的な相互作用によって強誘電体になるという新原理を発見したと発表した。
強誘電体は、外部磁場でプラスとマイナスに反転可能な電気分極を示す絶縁体で、ICカードなどの不揮発性メモリーや加圧すると電圧を発生するピエゾ素子などに使われている。従来の強誘電体は、磁性を示さなかったが、今回の研究総括である十倉好紀・東大教授らが平成15年に磁性と強誘電性を併せ持つ物質(マルチフェロイックス)を発見。平成18年来、JSTのプロジェクトとして同物質の創製と、その物性理論の研究を進めている。
今回のプロジェクトでは、「TTF-BA(テトラチアフルバレン・ブロマニル)」という有機物が、その結晶構造から考えて、低温で強誘電性を示すとの理論的予測をたて、これまで困難だったTTF-BAの大型試料を作成。それを用いた研究で、この物質がマイナス220ºC以下の低温で、磁気的相互作用によって強誘電体になることを発見した。また、この強誘電性は、60万ガウスという超強磁場まで保てることが分った。
TTF-BABAは、プラスの電荷を持つTTF分子と、マイナスの電荷を持つBA分子が、電気的引力で結び着いた結晶。電荷を持った分子は、同時に磁化の元となるミクロな磁石(スピン)を持つので、TTF-BAは磁性を持つ2種類の分子からなる結晶構造をしているといえる。室温では、スピンは互いにバラバラの方向を向いているが、温度が下がっていくと、スピン間の相互作用の結果、TTF分子とBA分子がペアを組んで電荷が偏り、電気分極が生じる。
この研究の結果、TTF-BAの強誘電性の起源は、スピンを持つ2種類の分子が一次元的に層状に重なっていることに起因し、その強誘電性は60万ガウスの超強磁場まで安定であることが判明した。
硬い無機物質にはない柔らかさを持つ有機物質で、磁場に強い強誘電体が発見されたことは、今後の有機材料の研究開発に新しい道を開くと期待されている。
No.2010-2
2010年1月11日~2010年1月17日