(独)産業技術総合研究所は1月14日、次世代の高速随時書き込み読み出し可能記憶素子「MRAM(磁気抵抗型ランダム・アクセス・メモリー)」の一種である「スピンRAM」の情報記憶安定性を高めると同時に、情報書き込み時の消費電力を低減できる新構造の素子「トンネル磁気抵抗(TMR)素子」を開発したと発表した。最大1G(ギガ、1Gは10億)ビット級スピンRAMが実現でき、垂直磁化膜と組み合わせれば、10Gビット級も理論的には可能という。
MRAMは、電気を切っても情報が消えず、高速で、情報を何度も書き替えられるなどの特徴を持つことから次世代メモリーとして開発が進み、既に米国では8メガ(1メガは100万)ビット級が市販されている。
しかし、従来型構造のMRAMでは、200 メガビット程度が限界といわれていた。スピンRAMでは、電流で向きが変わる強磁性層(フリ-層)の磁化方向で情報が記憶されるが、記憶容量を増大するために素子を余り微細化すると、熱的エネルギーで磁化の向きが何時の間にか独りでに反転、記憶が消えてしまうことが起こる。
かといって、微細化の代わりにフリー層の体積を増すと、情報記憶の安定性は向上するが、情報書き込み時の電流が増え、消費電力が上がる。この問題を解決するため、同研究所の研究陣は、今度の新構造のTMRを開発した。
新方式では、情報を記憶するフリー層を従来のコバルト・鉄・ホウ素合金の強磁性層1層から、ルテニウムの非磁性層を挟んだ3層構造とし、上下の強磁性層の磁化方向が同じ「平行結合」にした。その結果、書き込み電流の増大を抑えながら、情報記憶安定性を大幅に向上させることに成功した。
「平行結合」で、上の強磁性層が厚さ4nm(ナノメートル、1nmは10億分の1m)、下の強磁性層の厚さが2nmの場合、情報記憶安定性は従来の1層型の約5倍になった。これに対し、上下強磁性層の磁化方向が互いに逆向きの「反平行結合」では、情報記憶安定性は従来型と余り変わらなかった。
同研究所では、今後、書き込み電流の低い垂直磁化膜系TMR素子への適用を進め、超大容量スピンRAMの実現を目指す。
No.2010-2
2010年1月11日~2010年1月17日