化学反応を原子レベルで可視化することに成功
:産業技術総合研究所/科学技術振興機構/東京大学

 (独)産業技術総合研究所は1月12日、(独)科学技術振興機構、東京大学と共同で炭素材料の一種「フラーレン」の化学反応を原子レベルで可視化することに成功したと発表した。
 有機分子は、炭素など軽い元素でできている。そうした軽い分子の動きを原子レベルで観察するのは非常に難しい。今回の成果は、カーボンナノチューブの内径がnm(ナノメートル、1nmは10億分の1m)レベルの超微細なチューブの中にフラーレンを閉じ込め、電子顕微鏡による高分解能観察技術を使って封じ込めた2個のフラーレン分子が結びつく二量化反応を原子レベルで可視化したもの。化学反応の途中の原子情報が得られればこれまで分からなかったことを明らかにできるだけに、今回のナノテク分析技術は様々な反応機構の解明や新薬の開発などへの応用が期待される。
 フラーレンは、炭素原子がサッカーボール状に結びついた直径0.7~0.8nmの中空の超微細な球状炭素材料。炭素原子の数が違う何種類かのフラーレンが合成されているが、今回使ったのは、最も代表的な炭素原子60個からなるフラーレン。
 カーボンナノチューブの中に閉じ込めたフラーレン分子の電子顕微鏡像は、透過像であるため透かし絵のように見え、フラーレン分子の二量化反応が進むにつれて2つの分子の電子顕微鏡像が変化していく様子から、分子同士が初めに接触した後どのように相互作用し、さらにどのように結合の再構成が起こるかを明らかにすることができる。
 同研究所は、「化学反応を原子レベルで観察し、温度、濃度、分子の向き、金属原子の存在、与えるエネルギーなど実験的な環境を調整することで、分子一つひとつの反応を制御し解析できるようになった」としている。

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左は、カーボンナノチューブに閉じ込めた2個のフラーレン分子。右は、二量化が進み融合していく2個のフラーレン分子。共に電子顕微鏡像(提供:産業技術総合研究所)