(独)農業・食品産業技術総合研究機構の作物研究所は12月6日、同機構中央農業総合研究センター、(独)農業生物資源研究所、岡山大学資源植物科学研究所、横浜市立大学木原生物学研究所、帯広畜産大学と共同で、小麦の種子の休眠性を制御する遺伝子を突き止めたと発表した。小麦生産者にとって悩みの種である穂発芽(穂についたままの種子が収穫前に発芽する現象)が発生しにくい小麦品種の開発に役立つ成果という。
小麦は品種による違いもあるが、一般的に種子の休眠性はあまり強くなく、そのため収穫前の天候によってしばしば穂発芽が発生し、大きな被害をもたらしている。この被害軽減を目指して種子休眠性の強化が検討されているが、具体的にどのような遺伝子が休眠性に関与しているのかは不明だった。
この解明に取り組んでいた共同研究チームは今回、小麦の種子休眠性の制御に「MFT」と名付けられた遺伝子が関与していることを見出した。
小麦の種子の休眠性は、気温の影響を大きく受け、出穂後の成熟期間(登熟期)の気温が低いほど休眠性が強くなり、高いほど弱くなる。そこで研究チームは、気温によって発現量が変化する遺伝子を網羅的に調べ上げ、MFT遺伝子を突き止めることに成功した。
休眠性の強い品種であるゼンコウジコムギと弱い品種のチャイニーズスプリングを用いて遺伝子発現を調べたところ、ゼンコウジコムギはMFT遺伝子の発現量が多く、ゼンコウジコムギ型MFT遺伝子をチャイニーズスプリングに導入した組み換え体ではMFT遺伝子の発現量が増大し、種子の休眠性が非組み換え体よりも強くなることを確認した。
また、MFT遺伝子を小麦の未熟胚に導入し、強制的にMFT遺伝子を発現させたところ、未熟胚の発芽が抑制された。このことからMFT遺伝子発現が発芽を抑制することが示された。
ゼンコウジコムギとチャイニーズスプリングでは、MFT遺伝子の発現量を調節する領域に塩基の配列が1個異なるところがあることから、研究チームはその配列を識別するDNAマーカーも開発した。これを利用すると種子休眠性の強いゼンコウジコムギ型の品種を選別できるという。
これらの成果により、今後は穂発芽しやすい小麦品種の穂発芽耐性を向上させることが期待できるとしている。
No.2011-49
2011年12月5日~2011年12月11日