筑波大学は11月16日、タンパク質脱リン酸化酵素(ホスファターゼ)として知られる「PP2A」が、染色体へのタンパク質のリクルーター(補供者)としての新たな機能を有することを発見したと発表した。
細胞は、自らと同じものを作り出すために、細胞分裂の際に遺伝情報を担うゲノムDNA(デオキシリボ核酸)を、親細胞から2つの娘細胞に正確に分配しなければならない。細胞が、自分の大きさに比べて膨大な長さを持つゲノムDNAを分配するためには、DNAを染色体というコンパクトな配分可能な構造体に凝縮させる必要性が生じる。
この染色体の凝縮の過程では、「コンデンシン」というタンパク質複合体が、重要な働きをしている。ヒトを含めた高等真核生物には、コンデンシンⅠとコンデンシンⅡという2つのタイプのコンデンシンが存在する。この2つは、独自の機能を持ちながらも協調してDNA構造を変換することにより、正常な染色体の構築に貢献している。
今回の研究では、PP2Aが、コンデンシンⅡの分裂期染色体への結合に重要な働きをしていることを発見した。PP2Aにその機能を阻害するオカダ酸を添加した実験では、コンデンシンⅠの染色体結合に影響はなかったが、コンデンシンⅡの染色体への結合が阻害された。この実験からPP2Aは、コンデンシンⅡのみを制御しており、コンデンシンⅡの染色体への結合と正常な染色体構造の形成に必要であることが分かった。
分裂期におけるコンデンシンⅠとⅡの染色体への結合は、分裂期に活性化されるタンパク質リン酸化酵素(キナーゼ)によって促進されることが知られている。この研究で、キナーゼの働きと矛盾するPP2Aが有するタンパク質脱リン酸化活性機能は、コンデンシンⅡの染色体への結合時には働いておらず、PP2AはコンデンシンⅡに直接結合し、染色体に運びこんで結合させるリクルーターとしての役割をしていることが明らかになった。
また、PP2Aは、コンデンシン以外のタンパク質をリクルートすることも分かった。PP2Aの“リクルート機能”は、今回の研究で初めて発見された。
PP2Aは、がん抑制因子としての機能も持っている。強力な発がん促進作用を示すPP2A阻害剤オカダ酸は、これまでPP2Aの脱リン酸化酵素の活性を阻害することにより発がんを促進すると考えられてきた。今回の研究は、オカダ酸がPP2Aのリクルーター機能を阻害することで染色体の構造に異常が生じ、その結果として発がんが誘導されるという「がん発症の新たなメカニズム」の可能性を示唆している。
この研究成果は、11月15日(米東部時間)に米国科学雑誌「Nature Structural & Molecular Biology」のオンライン速報版に掲載された。
No.2009-46
2009年11月16日~2009年11月22日