(独)産業技術総合研究所は5月7日、宇宙の微小重力下でしか得られないような高品質のタンパク質単結晶を地上で作る技術を開発したと発表した。直径0.36mm以下の微小な液滴中でタンパク質を結晶化させることで、単結晶を1つだけ成長させることに成功した。生命科学や医薬品の研究開発にはタンパク質の立体構造解析が欠かせないが、従来は複数の単結晶が合体したり重なり合ったりしたものしか作れず、精度の高い立体構造解析が難しいとされていた。
地上でタンパク質の単結晶が複数重なり合ったようなものしか作れないのは、重力の影響で対流が起き、溶液中のあちこちで結晶成長が始まるためだ。研究グループは、小さな液滴中では内部の液体が動きにくくなって宇宙の微小重力下と似た環境になることに着目、微小液滴中での単結晶作りを試みた。
実験では、太さ1mm以下の流路に液体を流しながら化学反応を起こさせるマイクロリアクター技術を利用、甘味料として知られるソーマチンを溶かし込んだ微小液滴を用意した。直径0.13~0.5mmの4種類の液滴を数百個ずつ作り、4℃の温度下で数時間かけて結晶成長させた。
この結果、直径0.36mm以下の液滴中ではソーマチンの単結晶が1個だけできた。タンパク質の立体構造解析は、放射光の利用など測定技術の進歩によって大きな単結晶でなくとも対応できるようになっている。このため、小さくても単結晶を1個だけ、離れ離れに作ることが重要になっていた。
研究グループは今後、他のさまざまなタンパク質の結晶化に取り組む。また、微小液滴中での結晶成長は、理論的にも解明できたとしており、より短時間に結晶を得るなど技術の高度化を目指す。
No.2012-19
2012年5月7日~2012年5月13日