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地震の「過大予測」を防ぎ、正確で早い緊急速報を実現―複数の地震網を統合計算、海外でも利用可能:京都大学/気象研究所ほか

(2021年5月7日発表)

 京都大学防災研究所と気象庁気象研究所の研究グループは5月7日、これまでより正確な地震予報システム「拡張IPF法」を開発し、実用化したと発表した。揺れの小さな地震を誤って緊急地震速報として発信し混乱を起こすことがあった「過大予測」を防止するのが目的。海外でも適用可能なシステムで、地震国で期待が高まっている。統計数理研究所も共同研究に加わった。

 地震観測は、発生直後にいち早く到達する初期微動のP波をキャッチし、震源位置と規模、揺れの強さを推定する。気象庁が最大震度5弱以上と推定される地震について、強い揺れ(震度4以上)が予想される地域と規模を、可能な限り迅速に知らせるのが緊急地震速報。

 大きな揺れが到達する数秒から数十秒前にキャッチし、携帯メールやテレビ・ラジオなどを通じて警告する重要な防災システムだが、時々、揺れの小さな地震を緊急地震速報として誤って流すことがあった。

 過大予報の主な原因には、複数の地震がほぼ同時に発生した場合などに、地震の識別や規模の推定を誤ってしまうことがある。気象庁はこれを改善するためにIPF法(Integrated Particle Filter法)を開発し、2016年から運用してきた。それまで別々に用いていたデータや手法を統合的に扱い、震源要素を短時間で求めるなどの効率化を図った。これで複数の地震が同時に発生した場合にも、区別して震源を求め、震源決定や同一地震判定ができるようになった。

 もう一つの問題は、緊急地震速報に気象庁と(国)防災科学技術研究所の2つの地震観測網が使われている。双方の観測網は地震計のセンサーが異なることから別の計算手法を使わざるを得ず、両者の統合が難しかった。

 今回の「拡張IPF法」では、観測点でのトリガ情報(P波の到達時間、地震波の大きさ)の計算を、中枢サーバーで行うように改善した。これで異なるセンサーの観測点の情報を統合して使えるようになった。複数の地震観測網を一緒に利用することで、計算に使える地震計の数が増え、より正確な地震の検知に役立つようになった。

 京都大学防災研究所で2020年1月から10か月の検証期間中に、「震度3」以上を観測したすべての地震について、予測震度±1以内の精度で正しい検知が可能になり、平均で5秒早く予報の第一報を発表できるようになった。

 さまざまな地震観測網のデータが利用可能で、国ごとに異なる海外の地震観測網にも適用できる。アジアや中東の途上国などで大規模な地震が頻発していることから、このシステムへの期待が高い。