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蛍光有機分子をゼロから設計するAIの開発に成功―複雑な現象を示す機能性有機分子の合成に貢献:理化学研究所ほか

(2022年3月10日発表)

 (国)理化学研究所と横浜市立大学、(国)物質・材料研究機構などから成る国際共同研究グループは3月10日、量子化学計算を用いて蛍光有機分子をゼロから設計する人工知能(AI)を開発し、AIが考案した蛍光有機分子を実際に合成することに世界で初めて成功したと発表した。

 蛍光有機分子は塗料やセンサーをはじめ、有機ELなどに利用されている機能性分子。近年有用性が増し、研究開発に熱が入っているが、蛍光有機分子の開発はこれまで既知の蛍光分子を基にした誘導体の開発が主流であり、ゼロから蛍光有機分子を設計することはほとんど無かった。

 共同研究グループは今回、既知の分子には頼らず、蛍光有機分子をゼロから原子レベルで構築する技術に挑戦し、AIを活用することによって新技術の開発に成功した。

 通常、有機分子は基底状態の安定構造をとっている。光エネルギーを吸収すると有機分子は励起(れいき)状態に遷移し、構造緩和によって励起状態上の安定構造に到達する。そこから基底状態に戻る際に蛍光を発するが、この蛍光の機構、蛍光発現条件は、量子化学計算を用いることでコンピュータによるデジタル化が可能である。

 そこで研究グループは、量子化学計算を通して蛍光機構をデジタル化するシステムを構築し、その上でAIに分子構造を学習させて蛍光を理解させ、蛍光有機分子をゼロから設計する技術を開発した。

 これにより、蛍光現象を示す分子のAIによる設計が可能になった。 

 このAIが設計した分子の中から8個を合成し、蛍光測定したところ、そのうちの6個が蛍光を発することを確認できたという。

 量子化学計算を用いたシミュレーション技術と機械学習とを組み合わせることで、有機分子の特長を最大限引き出せる機能性分子の開発が可能なことが今回の成果で示された。センシングや有機エレクトロニクスなどの蛍光材料の開発はもとより、今後さまざまな現象を示す物質開発が期待されるとしている。