[編集発行] (公財)つくば科学万博記念財団 [協力] 科学技術振興機構(JST)・文科省研究交流センター

つくばサイエンスニュース

トピックスつくばサイエンスニュース

熱帯林の微生物―リン獲得は“質より量”で:森林総合研究所

(2025年7月16日発表)

 熱帯林の微生物は土壌中のリン不足に「質より量」で対応している。(国)森林総合研究所は7月16日、植物や微生物の生命活動に欠かせない栄養素リンを得るために微生物がこのような戦略で対応していることを突き止めたと発表した。質の高い酵素を作ってリン不足に対応しているのではないかという従来の考えを覆した。持続可能な森林管理や、効率的なリン資源の利用に役立つとしている。

 熱帯の多くの森林では土壌中にリンが不足しており、植物や微生物の成長を阻害する要因とされている。これまでの研究で、土壌微生物はリンを獲得するための酵素「フォスファターゼ」の生産量を増やすことが知られていたが、酵素の質については十分に検証されていなかった。

 そこで森林総研は中国科学院華南植物園と協力、熱帯林の土壌を対象に6~10年間にわたってリンを肥料として供給した土壌と、リンが不足したままの自然状態にある土壌に含まれる酵素を比較分析した。

 その結果、微生物は分解効率の良い高品質な酵素を少量生産して対応しているのではなく、低品質な酵素を大量に生産して対応していることがわかった。そのため研究チームは新たに「酵素劣化仮説」を提唱、微生物が作る酵素は劣化するので、低品質でも大量の酵素を生産する方が有利だとした。

 高品質な酵素を少量生産するという従来の戦略では、それらの酵素もたんぱく質を分解する酵素「プロテアーゼ」の影響を受けやすい。リンを獲得するのに必要な酵素「フォスファターゼ」の有効性も低下しやすくなるため、微生物は低品質でも大量の酵素を生産する方が有利になると判断した。

今回の成果について、研究チームは微生物の機能を活用した持続可能な森林管理や、限られたリン資源の効率的な利用に役立つと期待している。