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2019~2020年にオーストラリアで起きた森林火災―過去20年間で最も多くの二酸化炭素を放出:国立環境研究所

(2021年5月6日発表)

 (国)国立環境研究所は5月6日、2019~2020年にかけてオーストラリアで起きた大規模な森林火災は、同国内における過去20年間の火災の中で最も多くの二酸化炭素を放出したと発表した。

 この火災は2019年3月にオーストラリア北部から始まり、4月に東部にも広がり始め、11月から2020年1月にかけて東部のニューサウスウェールズ州、ビクトリア州において猛威を振るい2月に終息した。

 オーストラリアはしばしば大規模な森林火災に見舞われており、1939年、1983年、2009年には多数の死者を出しているが、今回の火災では34人が死亡、約3,000件の家屋および数千のビルが焼けた。コアラは総数の3分の1に相当する個体が死亡したとされる。

 環境研はこの火災による二酸化炭素放出量に着目、その定量評価、空間変動、原因について解析した。

 調査によると、この火災によって放出された二酸化炭素量は806±69.7Tg(Tgは100万トン)で、これは、オーストラリアにおける森林火災による2001~2018年の年平均の二酸化炭素放出量の2.8倍、2017年のオーストラリアの人為起源による温室効果ガス総排出量の1.5倍相当の量であった。

 この放出量は過去20年間で群を抜いて多かったが、焼失面積では今回を上回る火災がしばしばあった。にもかかわらず二酸化炭素放出量が特に多かったのは、オーストラリア東部の常緑広葉樹が広がる地帯で火災が起きたことによる。この地域はオーストラリアの中でも最も地上部バイオマスが多い地域であり、この豊富な地上部バイオマスを有する森林が消失した。

 2019年のオーストラリアの降水量は2001~2018年の年平均降水量の53%に当たり、特に火災の被害が甚大だった2019年10~12月のニューサウスウェールズ州の降水量は2001~2018年の平均降水量の僅か29%であった。極端な乾燥が甚大な火災被害をもたらした主因と考えられる、としている。

 2019年は記録的な猛暑であったが、火災による二酸化炭素放出量に対する気温の有意な影響は見られなかったという。