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サリドマイドの催眠作用は催奇形性とは別の分子機構―より安全な睡眠薬に生まれ変わる可能性浮上:筑波大学

(2020年8月31日発表)

 筑波大学の研究グループは8月31日、サリドマイドの睡眠作用は催奇形性とは別の独立した分子メカニズムによることが明らかになったと発表した。将来、催奇形性のないサリドマイド誘導体の睡眠薬がつくれる可能性があるとしている。

 サリドマイドはレム睡眠を抑制せず、より自然な眠りを誘導する睡眠・鎮静薬として1950年代に発売されたが、四肢形成不全(アザラシ肢症)などの深刻な副作用のため使用されなくなった。

 しかし、その後ハンセン病や多発性骨髄腫などの難病への効果やHIV感染症(エイズ)への有効性が認められ、近年再評価の研究が進んでいる。

 サリドマイドの作用メカニズムについては、セレブロン分子という結合因子にサリドマイドが結合し、たんぱく質分解系であるユビキチン・プロテアソーム系の機能が損なわれることで催奇形性が誘導されるとされている。

 そこで研究グループは今回、セレブロンを介したこの経路が、睡眠誘発作用に必須であるか否かを調べた。

 具体的には、サリドマイドが結合しないセレブロン変異体を発現させた変異型マウスを作成し、サリドマイドを投与して、睡眠への影響を調べた。その結果、野生型マウスと同様、深いノンレム睡眠が認められた。

 つまり、サリドマイドが結合できない型のセレブロンを有する変異型マウスにおいても、サリドマイド投与によって同程度の睡眠誘発が認められた。このことから、サリドマイドの睡眠作用を担うのは、セレブロンを介したユビキチン・プロテアソームによる基質たんぱく質の分解異常とは別の作用メカニズムによるものであることが明らかとなった。

 すなわち、サリドマイドが眠りを誘発するためにはセレブロンに結合する必要はなく、催奇形性を誘発する系を介さない、独立した作用メカニズムが存在することが示された。

 この別経路の睡眠誘発作用メカニズムを明らかにすることによって、今後、催奇形性を生じない、より安全な睡眠薬の開発が期待されるとしている。