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オスの始原生殖細胞でメス化の遺伝子発現量が少ないことが性差を決める―性を決定する仕組みの解明に期待:筑波大学ほか

(2021年3月3日発表)

 筑波大学生存ダイナミクス研究センターと帝京大学理工学部の研究チームは3月3日、ショウジョウバエを使った遺伝子発現実験の結果、オスの始原生殖細胞ではMSL複合体と呼ばれる分子群が形成されなかったことを発見したと発表した。メス化に関わる遺伝子の発現が少ないことがメス化を抑制したとみられ、性を決定する仕組みの解明に一歩前進した。

 ショウジョウバエの性は、人間と同じように細胞内のX染色体の数によって決定される。X染色体を1本持てばオス(XY)に、2本持つとメス(XX)になる。メスのX染色体上に存在する遺伝子の総数はオスの2倍になる。

 オスの体を作る体細胞では、MSL複合体によって性染色体上の遺伝子の発現量をメスと等しくなるように調整する「遺伝子量補償」という働きがある。だが、生殖細胞のもととなる始原生殖細胞でもこの遺伝子量補償が同じように働いているかどうかは分かっていなかった。

 研究チームは、ショウジョウバエの胚(卵)からオスとメスの始原細胞を採取して、発現している遺伝子をRNAシーケンシング法により全て決定した。

 その結果、始原生殖細胞でのX染色体上の遺伝子の発現量はオスに比べてメスが2倍高いことと、オスの始原生殖細胞でMSL複合体を構成する複数の因子の発現が非常に低いことを発見した。

 さらにオスの始原生殖細胞は、MSL複合体の構成因子を強制的に発現させると、X染色体上の遺伝子の発現が上昇することが分かった。

 このことから、オスの始原生殖細胞ではMSL複合体が作られないために、遺伝子量補償が働かないことが明らかになった。

 ショウジョウバエのX染色体上では、始原生殖細胞のメス化に関わる遺伝子が複数存在している。オスの始原生殖細胞では、遺伝子量補償が働かないためにメス化させる遺伝子の発現量がメスの半分になり、メス化が抑えられると考えられる。

 研究チームは今後、これを確認するためにX染色体上にある遺伝子の発現量を上昇させた場合に、オスの始原生殖細胞がメス化するか調べることにしている。