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原子が振動しながら共有結合していく様子を直接観測―光合成などの光化学反応の研究の促進に貢献:高エネルギー加速器研究機構ほか

(2020年6月23日発表)

 高エネルギー加速器研究機構(KEK)と(国)理化学研究所、(公財)高輝度光科学研究センター、韓国科学技術院などの研究グループは6月23日、光化学反応を駆動する原子の動きを明確かつ直接的に可視化する手法を開発、原子が振動しながら共有結合が形成されていく様子を直接観測することに成功したと発表した。 

 研究グループはこの観測に当たり、空間分解能としては原子レベルの精度、また、時間的な精度としては100フェムト秒(10兆分の1秒)の時間分解能を持つ測定技術を構築し、化学反応の形成過程を可視化した。

 その際、アライバルタイミングモニター法という計測手法を用い、X線自由電子レーザー(XFEL)で測定可能な時間分解能をこれまでの約500フェムト秒から100フェムト秒に改善、原子レベルの空間分解能で分子の構造を可視化できる時間分解X線溶液散乱測定という方法を同時に利用した。

 その結果、原子の速い動きにより分子結合が形成されて分子の形が変わっていく様子を、原子の位置情報として直接観測することに成功した。

 ちょうどサーカスの空中ブランコのように、原子同士が近づいたり離れたりする振動を利用することで、原子の間に次々と結合が生まれ、分子の形が複雑に変化していく様子が捉えられた。

 分子が振動することで化学反応が進行するという考え方はこれまでもあったが、実際にそれを原子の位置情報として直接観測したのは初めて。

 この手法を様々な光反応に適用すると、反応を進める原子の動き、反応中の構造変化、化学反応の速度、たどり着く安定な分子の構造、その化学反応メカニズムなどを直接解明することができる。また、光によって一斉に起きる原子の振動の様子を正確に知ることができ、光化学反応のメカニズムを視覚的に解明することが可能になる。

 人工光合成などの研究で基盤的観測手法になることが期待されるという。

 構築した測定手法は現在のところ金のような原子番号の比較的大きい原子が対象だが、今後、炭素、酸素、窒素などの軽い原子にも適用できるような方法を探り、一般的な化学反応の直接観測を目指したいとしている。