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フラストレート量子磁性体でハイブリッド励起を観測―中性子散乱実験を通して検証:東京大学/東京工業大学/静岡大学/高エネルギー加速器研究機構ほか

(2019年10月19日発表)

 東京大学、東京工業大学、静岡大学、高エネルギー加速器研究機構(KEK)などの共同研究グループは10月19日、フラストレート量子磁性体と呼ばれる磁性体のハイブリッド励起を観測し、その起源を解明したと発表した。圧力による熱流やスピン流の制御の可能性が示されたという。

 フラストレート量子磁性体は、スピン間に働くすべての相互作用エネルギーを最低にすることができない磁性体のこと。自然界はエネルギー最低の状態を好むが、それが阻害されていて、フラストレーションがたまっているだろうということから付けられた名前。人間界ではフラストレーションがたまると時に想定外のアクシデントが発生するが、自然界では予想外の面白い現象の発見につながる。

 研究グループは今回、電子のスピンの運動状態を調べることができる中性子散乱実験を、フラストレート量子磁性体であるCsFeCl3という物質を対象に実施した。物質の運動状態についてはこれまで位相揺らぎと振幅揺らぎがそれぞれ独立に研究され、これらが混成した状態の「ハイブリッド励起」については研究が遅れていた。

 実験の結果、位相揺らぎと振幅揺らぎの両方を含む二つの励起状態がある場合にみられる、互いがよけ合うような中性子スペクトル、すなわちハイブリッド励起を観測した。ハイブリッド励起の検証成功は初めてのことであり、ミクロな起源を明らかにすることにも成功した。

 ハイブリッド励起は磁性体のみならず、電荷密度波系、スピン密度波系、冷却原子系など自発的対称性が破れた系一般に存在しうるものであり、今後様々な系での検証が期待されるとしている。