森林内の放射性セシウムの動きを将来予測―半減期の長いセシウム137を対象にして実施:森林総合研究所ほか
(2020年2月6日発表発表)
(国)森林総合研究所、(国)国立環境研究所、東京大学の共同研究グループは2月6日、森林内の放射性セシウムの動きをコンピューターシミュレーションで解析し、森林の中の放射性セシウムの分布や木材中の濃度の変化を長期予測したと発表した。福島第一原子力発電所の事故で放出され森林内に降下した放射性セシウムの動きが事故後20年でどう変わるか長期予測した。
放射線を出す放射性セシウムにはいくつかの種類(放射性同位体)がある。2011年に起こった福島第一原発事故ではセシウム137と同134が主に放出されたが、今回の研究はセシウム137を対象にして行った。
セシウム137は、放射能が半分になるまでの半減期が約30年と長く、汚染された森林の管理は今後も長く続いていく重要な課題になっている。
福島第一原発の事故で放出された放射性物質が降下した区域の約7割は森林といわれている。その降下物の一つ放射性セシウムは、森林内で木材本体や枝、葉、樹皮、地表部の落ち葉層、さらにその下の土壌に分布しているが、落ち葉になってからの移動や根からの吸収などによって森林の中の分布状態は変化している。
このため、観測で得られた情報を組み合わせて森林の中での放射性セシウムの動きを総合的に把握することが必要とされ、森林総研は林野庁の「森林内における放射性物質実態把握調査事業」として森林の放射性セシウム調査に取り組み、放射性セシウムの変化状況をシミュレーションする予測モデルを完成させている。
今回の解析は、最新の観測データを用いてそのモデルをさらに改良し、事故後20年で森林内の放射性セシウムの分布がどのように変化するか、スギとコナラの木材中の放射性セシウム濃度がどのように変化するかを予測した。
その結果、①ほとんどの放射性セシウムが土壌に溜まり続け、その集積は今後長期的に変化しない、②スギの木材中の放射性セシウム濃度は大きく変化しない、③コナラの木材中の放射性セシウムは増加が緩やかになる傾向が今後も続く、という変化の少ない長期予測が得られ、「森林の中の放射性セシウムの動きが平衡状態に近づいていることが示唆された」と研究グループは指摘している。
また、今回のコンピューターシミュレーションでは、どの地域の木材がどの程度の放射性セシウム濃度になるか―といったこともこれまでの研究結果に基づいて長期予測している。