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謎の多いスラブ内地震の解明に向け一歩―複雑な破壊の過程を詳細に解析:筑波大学

(2021年12月17日発表)

 筑波大学は12月17日、ニュージーランド北部沖合の「スラブ」と呼ばれる海底のプレート(岩盤)内で2021年3月に発生したM(マグニチュード)7.3の地震を解析した結果、極めて複雑な地震破壊が生じていたことが分かったと発表した。スラブは海底深くにあることから観測が難しく、大部分が不明のままだが「観測する道筋を提示することができた」と研究グループはいっている。

 プレートは、地球の表面を覆っている巨大な岩盤のこと。そのプレート同士の境界は、地震など地球のダイナミックな変動現象の舞台になっていて、日本やチリ、ニュージーランドなどでは海洋側のプレートが大陸側のプレートの下に沈み込んでいる。

 スラブとは、その大陸側のプレートの下に沈み込んだ海洋プレートを指す。

 2021年のニュージーランド北部沖地震は、陸側のオーストラリアプレートに沈み込むスラブ内で発生した。

 今回の解析は、その地震発生時に世界の55の地点で観測された地震波形データを使って行ったもので、逆断層、横ずれ断層、正断層の破壊が混在する極めて複雑な地震だったことが分かった。

 スラブの曲がりにより内部でさまざまな地震が発生すること自体はこれまでも知られていた。しかし、一つのスラブ内地震で複数の機構の地震破壊が同時に多発的に生じたことを解明したのは世界でも今度が初めてだという。

 スラブ内地震はしばしば強い振れを起こして構造物に大きな被害をもたらしている。そのため、スラブの形状を明らかにすることが将来起こりうるスラブ内地震やそれに伴う被害を評価する上から求められている。

 だが、スラブ内で発生する地震の発生機構の全貌(ぜんよう)はこれまで行われてきた研究ではつかめていない。

 今回の研究は、地震発生時に計測された地震波形データの解析からこれまで困難だったスラブ内地震の発生機構を精緻(せいち)にイメージングできることを示した。研究グループは、日本やチリ、インド洋など世界で発生するスラブ内地震を網羅的に解析して複雑なスラブ内地震の発生機構と謎が多いスラブの姿を明らかにすることに挑戦していきたいと話している。