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世界の干ばつ被害、農地の炭素増やすことで軽減―穀物生産16%増産できることが解析で判明:農業・食品産業技術総合研究機構

(2020年2月6日発表)

 (国)農業・食品産業技術総合研究機構は26日、農地の土壌に含まれる炭素の量を増やすことで世界の干ばつ被害を軽減でき、干ばつ年の世界の穀物生産額を現状より最大で16%増やせる、とする研究結果を発表した。干ばつ被害の軽減効果が最大になるよう世界の土壌の炭素量を増やすとすると、その追加炭素量は48.7t、世界の2016年の年間CO₂(二酸化炭素)放出量の55%に相当する量になることが分かったという。

 世界で最も影響の大きい農業気象災害は、干ばつ。開発途上国で行われている農業の多くは必要な水を雨水に頼っている。このため、常に干ばつの危険にさらされ、ひとたび干ばつが起こると食料不足に見舞われてしまう大きな問題を抱えている。

 農地に施した堆肥などの肥料になる有機物は、多くが微生物により分解されるが、一部は分解されにくい炭素となって土壌中に貯留される。それを「土壌炭素」といい、作物の干ばつ被害の軽減に役立つことが知られ、土壌炭素の利用を積極的に進めようという「4パーミルイニシアチブ」と呼ばれる国際プロジェクトが既にスタートしている。

 「4パーミル」とは1,000分の4のこと。4パーミルイニシアチブは、全世界の土壌中の炭素の量を毎年1,000分の4、つまり0.4%ずつ増やそうというもの。実現すれば食料安全保障の達成と温暖化防止対策の“一挙両得”になるとして2015年に開かれた気候変動枠組条約の締約国会議「COP21」で提案され、世界の400を超す国や国際組織が取り組んでいるといわれている。

 しかし、これまで土壌炭素の増加による干ばつ被害の軽減効果が、世界のどの地域でどの程度あるのか、については明らかになっていなかった。

 農研機構は今回、世界の主要穀物であるコメ、トウモロコシ、コムギ、ダイズの収量データと土壌データとを組み合わせ、農地の表層30cmまでに含まれる炭素量と穀物の干ばつ被害との関係を解析し、炭素貯留による干ばつ被害の軽減効果を具体的に推定した。

 その結果、世界の農地の7割が分布する乾燥・半乾燥地域では、農地中の土壌炭素の量が多い所ほど干ばつによる収量の低下が抑えられているという関係があることが判明。干ばつ被害の軽減効果が最大に見込める水準まで土壌炭素の量を増やすと仮定すると、農地に追加で蓄えられる炭素量は世界の2016年の年間CO₂排出量の55%に相当する48.7tとなり、干ばつの年の世界の穀物生産を現状より最大で16%増産できるという試算結果が得られた。

 農研機構は、今回の研究によって「世界の乾燥・半乾燥地域における農地土壌の炭素貯留が温暖化の緩和、食糧安全保障、土壌保全といった複数のSDGs(エスデ-ジ-ズ:持続可能な開発目標)の達成に同時に寄与できることが具体的な数値と共に示された」とし、今後は炭素貯留に適した農地管理技術とその効果についての検証を進める予定にしている。