真核生物誕生のカギを握る微生物・アーキアの培養に成功―27億年前からの真核生物の新しい進化論を提案:海洋研究開発機構/産業技術総合研究所ほか
(2020年1月16日発表)
(国)海洋研究開発機構(JAMSTEC)の井町寛之主任研究員と、(国)産業技術総合研究所のMasaru K. Nobu(延優)研究員らの研究グループは1月16日、人間や植物、魚類など真核生物の祖先に最も近い微生物を、2,500mの深海堆積物から採取し、培養することに初めて成功したと発表した。この培養によってアーキア(古細菌)はミトコンドリアなどの他の微生物と共生しながら生育し、真核生物に進化したとの説を裏付けるものとみている。
人間や植物などの真核生物がどのようにして地球上に誕生したかの議論には様々な仮説がある。その中で広く支持されているのは、原核生物のアーキアがバクテリア細胞(ミトコンドリアの祖先)をその細胞内に取り込み、共生によって真核生物が誕生したとの説だ。
しかし原核生物から真核生物に移行するにあたって、中間体のような生物が見つからないために議論は中断していた。この謎を解く鍵となるアーキアは細胞形態や生き様などの実態が不明なため、実験室で培養して詳しく調べることが求められていたものの、培養が極めて難しく進展しなかった。
研究チームは2006年5月にJAMSTECの有人潜水調査船「しんかい6500」によって、紀伊半島南の南海トラフの深海(2,533m)から堆積物を採取した。
メタン湧出の海底環境に似せた実験室内で長時間培養を続け、微生物の分離を試みた。約1年後に、嫌気性の培地が入った試験管から微生物が増殖しているのを確認し、遺伝子解析から少数のロキアーキオータ(古細菌群)と数種類の微生物が存在していることを確かめた。
この古細菌群は無酸素状態の中でアミノ酸を代謝し、水素を生成して他の微生物に渡すことで共生関係を維持して増殖していることが分かった。古細菌群をメタン生成アーキアと2種類の微生物に分離することに成功したが、深海堆積物の採取から分離までに12年もかかる困難な仕事だった。
古細菌群を「MK-D1株」と名付けた。無酸素環境下のみで増殖し、アミノ酸などをエネルギー源にして生育している。
電子顕微鏡などで調べたところ、細胞は直径550nm(約2,000分の1mm)の小さな球体であり、細胞内部は単純な構造だった。他の多くの研究者が予想していた「核や小器官を持つ複雑な細胞」とは大きく違っていた。その反面、MK-D1株の細胞形態は他の原核生物にはない複雑な形態をしていて、触手のような長い突起構造を細胞外部に作ることや、細胞外には多くの小胞を放出することも分かった。
これらの結果から、研究チームは真核生物の新たな進化説を提案した。それによると、今から27億年前に登場したシアノバクテリアが地球上に酸素を増やし始めたため、アーキアにとって毒に当たる酸素を解毒してもらうために、ミトコンドリアの祖先となるバクテリアと共生した。アーキアはMK-D1株のような長い触手や小胞を使ってミトコンドリアの祖先を取り込み、共生が進んで最初の真核生物細胞が生まれたとのストーリーだ。
今後はMK-D1株の遺伝子の本来の役割を見つけ、触手状の長い突起構造や小胞の構成成分やその役割を解明することにしている。