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農業用ヒートポンプの熱交換効率を大幅に上げる―水路の流水中にシート状熱交換器設置して達成:農業・食品産業技術総合研究機構ほか

(2020年1月15日発表)

 (国)農業・食品産業技術総合研究機構は115日、ジオシステム(株)と共同で農業用ヒートポンプの熱交換効率を大幅に上げることに成功したと発表した。農村地域に張り巡らされている農業用水路の水の流れが持つ熱でヒートポンプを動かして農業用ハウスなどの冷暖房温度を今より低コストでコントロールできるようにした。水路に隣接している住宅やコンビニエンスストアなど農業以外の空調にも利用可能という。

 ヒートポンプは、代替フロンなどの低沸点の媒体によって熱の交換を行う冷暖房エアコンと同じ原理の空調機。効率が良く、家電や工業用にだけでなく農業の分野でも土中や空中の熱をヒートポンプによって栽培用ハウスなどに取り込んで暖房・冷房・除湿のエネルギーコスト削減を図ることが行なわれている。運転に使う電気エネルギーの3倍以上の熱エネルギーが得られるとされ、さらに近年はより高い交換効率を求め水中への設置が研究されている。

 しかし、これまでヒートポンプの熱交換器を農業用水路の水の流れの中に設置した事例はなかった。それを今回水中設置に適したシート状の熱交換器を作り水中にセットできるようにした。

 面積100ha(1haは1万㎡)以上の農地に水を送っている基幹的農業用水路と呼ばれる水路は、全国に約3.3km敷設されている。今回の研究は、(国)新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)からの委託研究の一環としてそうした農業用水路の流水をヒートポンプの熱源として利用できるようにしようと行ったもので、ポリエチレン製の細長い管(直径6mm)を多数本シートのよう(板状)にセットしたシート状熱交換器を使った。

 研究は、茨城県つくば市にある農研機構の実験棟内に長さ15m、高さと幅が1.6mの農業用水路を模した実規模水利模型を設け、ポリエチレン製細管117本からなる長さ5.6mのシート状熱交換器を流水中に設置し各細管の中を低沸点の媒体が流れて流水の熱が得られるようにしてその熱交換特性を調べるという方法で行った。

 その結果、シート状熱交換器を流水中に設置した場合の熱交換効率が静水中設置の約2.5倍、土中設置の同15倍、従来型の熱交換器を土中設置した場合の同25倍にもなることが分かった。

 農業用水路の周辺には、住宅をはじめ様々な施設が点在していることが多い。今回の技術は、水路に隣接するそうした各種の施設にも導入できエネルギー削減に役立つものと農研機構は期待している。