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有機半導体で世界最速トランジスタ―微細加工に新技術:東京大学/産業技術総合研究所

(2019年2月5日発表)

 東京大学と(国)産業技術総合研究所は2月5日、電子回路を作るのに簡便な印刷プロセスが利用できる有機半導体で世界最速トランジスタを実現したと発表した。有機半導体薄膜の上で微細な回路を作る新しい加工手法を開発、従来の世界記録を2倍程度更新した。FMラジオで使われる超短波帯を利用した長距離無線通信や物流管理用の無線タグなどに応用可能な有機集積回路の実現に役立つという。

 シリコンなど固体半導体を使った集積回路では、微細な電子回路を形成するのに回路パターンを写真の原理で焼き付けて加工するリソグラフィー技術が使われる。これに対し、有機半導体にリソグラフィー技術を使おうとすると半導体がダメージを受けやすいため、高速化に必要とされる電子回路の高電荷移動度と短チャネル化を両立するのが困難だった。

 研究チームは今回、有機半導体単結晶の薄膜上にフッ素系高分子膜を薄くコーティングすることで、有機半導体を痛めないリソグラフィー技術を新たに開発した。その結果、1μm(マイクロメートル、1µmは1,000分の1mm )単位の精度で電子回路を形成できるようになり、高電荷移動度と短チャネル化を同時に達成できた。これによって電気信号を増幅できる限界の遮断周波数が、これまで研究チームが自ら持っていた世界記録を約2倍も上回る38MHz(メガヘルツ)に向上、世界最速性能が実現できたという。

 今回の成果について、研究チームは「超短波帯で動作する有機トランジスタの開発は世界で初めて」として、有機集積回路の実現につながると期待している。将来的にはIoT(モノのインターネット)社会を担う物流管理用の低コスト無線タグや、電磁波で電力を供給する無線給電システムなどに幅広く展開できるとみている。