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海洋生態系変化に新解析手法―温暖化で日本近海の海藻藻場はサンゴ礁に:国立環境研究所ほか

(2018年8月20日発表)

 (国)国立環境研究所と北海道大学、国立極地研究所は820日、温暖化に伴って日本周辺の温帯海域で海藻が生育する藻場が急速にサンゴ礁に置き換わりつつある現状を明らかにし、そのメカニズムを解明したと発表した。海藻とサンゴの環境変化への適応速度の違いや海流との関係などから、海水温変動と海流の影響を同時に解析できるようにした。気候変動による被害から海藻藻場やサンゴ礁を保全する対策作りに役立つと期待している。

 研究グループは、日本の温帯海域で見られる主な海藻30種(コンブ類8種、ホンダワラ類22種)とサンゴ礁を作る造礁サンゴ12種、さらに藻場減少の一因である魚類(3種)による食害を対象に、これまでに発表された439文献を精査、その記録から19502010年代に藻場とサンゴ礁の分布がどう変化してきたかを調べた。

 その結果、サンゴや食害魚類の分布は海藻に比べてより速くより遠くまで広がっていた。海藻は分布北限の拡大よりも分布南限の縮小が大きく、サンゴや食害魚類は分布南限が変化しないまま分布北限が拡大するケースが多かった。分布の拡大・縮小は黒潮や対馬暖流に沿った海域に集中した。

 そこで、これらの分布拡大・縮小が温暖化による海水温の上昇と海流の輸送効果でどのように起きるかを数式で再現するモデルづくりをした。その結果、分布南限の縮小は生物の移動を伴わなくても起きるため海流の影響は小さかった。さらに、海藻だけでなく海流に乗って比較的移動しやすいサンゴでも、気候変化の速さに合わせて分布を拡大していくことは難しいことが分かった。

 気候変化速度と海藻、サンゴ、魚類の分布速度との関係を用いた推定では、海藻藻場がサンゴ群集に置き換わっていく潜在的な確率は、実際にサンゴ群集が拡大している九州や四国、紀伊半島などの海域で高くなった。また、海藻藻場がサンゴに置き換わっていくのは、両者の直接的な競合より魚による藻場の食害効果が大きかった。

 今回の結果から、研究グループは「サンゴの分布拡大さえも気候変化の速さに追い付いていけず、海藻藻場が消失したままのケースも多く見られる」と指摘、このまま対策を取らなければ従来型生態系が消失する海域が拡大する可能性があると警告している。今後は海洋酸性化なども考慮、より高精度な分布変化も予測できるようにする。