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新型コロナ治療・予防に新技術―どんな変異株にも有効:理化学研究所ほか

(2025年9月11日発表)

 次々に変異し姿を変える新型コロナウイルスも感染予防や治療可能に。(国)理化学研究所と東京大学医科学研究所、滋賀医科大学は9月11日、このような技術を開発したと発表した。ウイルスがヒトの細胞内に侵入する“カギ”を使えなく治療する現在のワクチンとは異なり、ヒトの細胞表面にある“カギ穴”をふさぐ技術で、動物実験で効果を確認した。新しいウイルス変異株が現れるたびにワクチン開発に追われる必要もなくなると期待している。

 新型コロナウイルスがヒトの細胞内に侵入する際には、ウイルス細胞の表面にあるたんぱく質がカギ役となる。一方、ヒトの肺や気道の細胞表面にある酵素「TMPRSS2」は、ウイルスがヒト細胞内に侵入する際のカギ穴の役目を果たす。

 今回、研究グループはヒトの細胞に侵入するのに必要なウイルスが持つカギではなく、ヒトの細胞にあってカギ穴役を果たす酵素に注目。その働きを抑えるモノクローナル抗体を開発して、マウスとカニクイザルに投与する動物実験を試みた。これらの実験動物では、ウイルスに感染する際のカギ穴役となるヒトのたんぱく質遺伝子を、あらかじめ動物に組み込んでおいた。

 この実験の結果、感染直前に開発したモノクローナル抗体を予防的に投与したマウスでは、投与しなかった場合に比べ肺の中のウイルス量が10分の1程度に低下していた。また、カニクイザルでは感染後に投与して治療効果をみたところ、感染に伴う体温上昇が抑えられた。さらに肺の炎症も強く抑制され、ウイルス量も20分の1程度に抑えられた。

 研究グループは、新技術について「動物実験で予防的投与と治療的投与が有効である可能性が示された」「従来のワクチン投与や抗ウイルス抗体と違ってウイルス変異によらずに使用できる」として、予防薬や治療薬としての有効性を確認していく。