AI嗅覚センサのニオイ識別過程の可視化に成功―人工嗅覚の性能向上や人間の嗅覚の仕組み理解に手がかり:物質・材料研究機構
(2025年9月11日発表)
(国)物質・材料研究機構の研究グループは9月11日、嗅覚(きゅうかく)センサがさまざまなニオイ分子をとらえニオイを識別する過程の可視化に成功したと発表した。ニオイ分子に反応する感応材料として、どのような材料を使えば高性能な化学センサを作れるのか、その開発指針が得られるという。
人間や動物の鼻は数十万種類以上のニオイ分子を感じ取れるとされる。動物の嗅覚がこれほど高度で敏感なのは、ニオイの感応材料に当る嗅覚受容体が、化学センサに相当する嗅神経細胞に約400種類も存在し、これによってニオイ分子を捉えるとともに、嗅球と呼ばれる脳の部位に、ニオイ分子の特徴を抽出する高度な仕組みが備わっているからである。
近年、この原理を模倣した人工嗅覚の技術開発が試みられている。複数の化学センサを使ってニオイ分子を検出し、AI(人工知能)でそれを分類・識別するというものだ。しかし、化学センサの感度やAIによる識別精度にはこれまで限界があり、実用化は十分に進んでいない。
もし感応材料ごとの反応特性が明らかになれば、識別したいニオイ分子に応じた最適な材料の開発や、より正確なニオイ識別のための感応材料の選択が可能になる。研究グループは今回、この実現に向けて研究に取り組んだ。
研究では、ニオイ分子とセンサ応答の関係を明らかにするために「説明可能なAI(XAI)」と呼ばれている人工知能を利用した。XAIは、たとえば画像認識においてAIが画像のどこを視て識別しているかを可視化する手法として広く用いられている。
実験では94種類のニオイ分子を14種類の感応材料を用いた膜型表面応力センサMSSで測定し、そのデータをXAIで解析した。XAIは識別においてAIがデータのどこを視て識別しているかを可視化できる。
解析の結果、ニオイ分子と感応材料の組み合わせによって、識別に用いられるセンサ応答の重要な部分が異なることが分かった。すなわち、XAIによる可視化により、ニオイ分子に応じて、どの感応材料が必要で、センサシグナルのどこが識別に重要かの抽出が可能になった。
この結果、識別したいニオイ分子に応じて必要な感応材料を効率的に選別できるようになり、また、識別が難しいニオイ分子に対応するための感応材料の開発指針も得られるようになった。この成果は、人工嗅覚の性能向上への貢献だけでなく、人間の嗅覚の仕組みの理解に手がかりを与えることが期待されるとしている。



