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ウイルスの空気感染はすれ違い後5秒以内にピークが現れる―5秒間のリスクヘッジ、1メートル以上離れる、風上を通る:筑波大学

(2023年10月19日発表)

 筑波大学体育系の中山 雅雄教授、浅井 武名誉教授の研究グループは10月19日、新型コロナウイルス(コロナ)による空気感染のリスクを、移動型マネキンなどを使った実験によって明らかにしたと発表した。

 コロナの感染経路は色々と議論を呼んだが、世界保健機関(WHO)や米国疾病対策予防センター(CDC)は、空中を漂うエアロゾル粒子の吸入が感染を引き起こすと警鐘を鳴らしている。

 大きなエアロゾル粒子(粒子)は空気中に数分から数十分漂うが、直径5µm (マイクロメートル、1µmは1,000分の1mm )未満の小さな粒子は数時間も漂うことがある。空中の滞留時間が長い粒子ほど感染リスクは大きくなると考えられている。

 最近は行動規制の緩和によって人の移動や通行が再び活発化したため、人の吐く息(運動中の噴流量)のエアロゾル粒子による感染リスクの把握が急務になってきた。しかし粒子の動きは空気の流れや換気などの微妙な影響を受けやすく、複雑で不明な点が多かった。

 研究グループは、強化プラスチック製の人体マネキン(高さ170cm)を電動カートに乗せて直進運動させ、対面時にエアロゾル粒子の流れがどうなるかを可視化させた。人が息を吐くようにマネキンの口からエアロゾルを噴出させ、その流れをレーザーシートで捉え、ハイスピードカメラで映し出した。

 マネキンの速度は、歩行(5km/h)、ジョギング(10 km/h)、ランニング(15 km/h)、スプリント(20 km/h)の4段階に設定し、人の息の噴流量は歩行(30ℓ/min)、ジョギング(55ℓ/min)、ランニング(80 ℓ/min)とした。粒子数はそれぞれ5回ずつ測り、平均値を割り出した。

 その結果、「換気のない」条件では、粒子数のピークは歩行速度が最も多く、対面通過後5秒以内に最大となり、その後急速に減少した。通過速度が速いほど粒子数は減少した。粒子が通過後にマネキン後方で乱流渦を起こし、時間経過に伴う拡散が大きな原因の一つと考えられている。通過速度が速くなるほど粒子が大きく拡散されるため、ウイルスを浴びるリスクは減少する。

 一方、「換気あり」の条件でも歩行速度のピークは最大だったものの、換気なしと比べると55%以下だった。定常的な換気による粒子の拡散効果で大幅に減少した。

 対面時のセキの飛沫沈着量は、セキ噴射口前方60cm、下方30cmが最も多く、90%以上の飛沫が前方90cm以内に落下するとの報告がある。

 こうしたことから対面時の対策として、5秒間のリスクヘッジを考慮し吸気を中断する、進行方向の横方向にコースを移動させて距離を置く、風上側を通る、などの工夫でウイルスを浴びるリスクの回避が可能になるとしている。

 この対策は、インフルエンザや風疹ウイルスなど、様々なエアロゾル粒子が媒介する場合の感染リスクの軽減にも応用できるとしている。

粒子追跡流速測定システムによる大規模渦構造の流線による可視化例。マネキンは画面右側から左側へ移動している。 ©筑波大学
無換気条件(呼気量30L)における、通過速度5km/h(a)、10km/h(b)、15km/h(c)、20km/h(d)における平均エアロゾル粒子数。全ての速度条件において、平均エアロゾル粒子数ピークは、対面通過後5秒以内に出現している。©筑波大学
換気条件(呼気量30L)における、通過速度5km/h(a)、10km/h(b)、15km/h(c)、20km/h(d)における平均エアロゾル粒子数。全ての速度条件において、平均エアロゾル粒子数ピークは、対面通過後5秒以内に出現している。©筑波大学