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材料の機能を高速・高精度に予測できるAI技術を開発―実験に要する時間の2万分の1以下で予測可能に:新エネルギー・産業技術総合開発機構/産業技術総合研究所ほか

(2022年6月30日発表)

 (国)産業技術総合研究所と先端素材高速開発技術研究組合、日本ゼオン(株)の共同研究グループは6月30日、複数のAI(人工知能)を活用して複雑な材料データから様々な機能を高速・高精度に予測する技術を開発したと発表した。材料開発の大幅な高度化、高速化が期待されるという。

 医薬品化合物など各種材料の開発ではAI技術が盛んに活用されている。しかし、開発の多くは多数の成分を含む複雑材料系であるため、単純な元素や化学結合を元にしたこれまでのAI技術では機能の予測が困難な場合が多い。また、材料の特徴を捉えた画像などの単独の計測データを用いたAI技術では、予測できる特徴が限定的で、狭い範囲しか適用できないなどの問題があった。

 このような中で、(国)新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)は2016年度から「超先端材料超高速開発基盤技術プロジェクト」を立ち上げ、共同研究グループはこのプロジェクトのもとで機能性材料開発の高速化を目指し、複雑な構造を持つ材料を扱えるマルチモーダルAI技術の開発に取り組んでいた。

 マルチモーダルAI技術は、外界を認識するヒトの脳に似た仕組みのニューロコンピュータ技術。人間は五感という異なる感覚器から入ってくる複数の情報を処理して高度な判断を下している。

 新技術では、母材・添加剤・充填剤といった様々な配合を持つ複雑材料系に対して深層学習(ディープラーニング=脳神経回路網を模したAIによる学習)を適用し、画像や分光スペクトルといった異なる複数のデータを計測・統合、複雑材料系の様々な機能や特性を予測する。

 このマルチモーダルAI技術による特性予測は、実際に材料を成形加工・評価する場合と比較して、極めて高速に実行できる。1日当たり、異なる配合条件などに対して約10万件の予測が可能で、この速さは実験に要する時間の2万分の1以下に相当するという。

 膨大な条件から選定・成形加工・評価を行う材料開発の大幅な高度化・高速化につながる成果が得られたとしている。