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選定療養費の導入で病院の紹介率が4〜5%上昇―400床以上の大病院で高度・専門医療の機能分化が進む:国立健康危機管理研究機構/筑波大学

(2025年12月8日発表)

 クリニックなどの紹介状なしで大病院に初診でかかると、通常の診療費とは別に「選定療養費」が徴収される。この選定療養費制度の義務化によって茨城県内の紹介率がどのように変化したかを、国立健康危機管理機構の射場 在紗(いば ありさ)上級研究員と筑波大学医学医療系の田宮 奈津子(たみや なつこ)教授の研究チームが解析し、12月8日に発表した。

 選定療養費は、特定機能病院(大学医学部附属病院やがんセンターなど)と200床以上の地域医療支援病院で2016年度から義務化された。続いて400〜499床では2018年度から、200〜399床は2020年度から順次実施されてきた。

 対象となるのは、保険診療と保険外診療の併用時、差額ベッド代、歯科の金合金、時間外の診療となる。

 目的は、最初に「かかりつけ医」など地域の病院や診療所で診てもらい、高度・専門医療は大病院で行うという医療機関の機能分担を進めるために設けられた。医師の負担軽減や外来医療の質の向上につながると期待される。

 研究チームは茨城県の国民健康保険レセプト(医療費明細書)データを使って、2014年〜2021年に200床以上の19病院を調査した。

 初診患者数はのべ405万人(平均年齢54.9歳)で、病院毎と月毎の紹介料(紹介患者数/初診患者数)を算出し、それぞれ義務化の前と後での紹介率の変化を分析した。

 その結果、①特定機能病院では、義務化前から紹介状が必要だったため大きな変化はなかった。

 ②500床以上(地域医療支援病院)では、対照病院と比較して5.1%ポイント上昇したものの、その翌月からほぼ一定になった。

 ③400〜499床では、2016年の最初期に合わせて3.54%ポイント上昇したものの間もなく安定した。その後、支援病院が義務化の対象になった2018年4月にさらに4.49%ポイント上昇し、安定した。

 ④200〜399床では有意な変化はなかった。新型コロナウイルスの感染拡大と重なり、受診控えと入院件数の減少が影響したとみられる。 

 400床以上の地域医療支援病院では、選定療養費の義務化によって紹介率が上昇したことが認められた。かかりつけ医と大病院での医療の機能分化に影響があったとみている。

 今後は選定療養費の義務化によって医療費や入院率、死亡などの影響や効果を調べることにしている。