サンゴによる海岸線沿いの波高の低下率を調査・予測―サンゴの成長で波高低下率増大し沿岸災害リスク低下:和歌山県立南紀熊野ジオパークセンター/和歌山大学/産業技術総合研究所
(2025年12月10日発表)
和歌山県立南紀熊野ジオパークセンターと(国)産業技術総合研究所などの共同研究グループは12月10日、外洋の波高に比べて海岸線沿いの波高がどのくらい低下するかを示す「波高低下率」について、国内3県のサンゴ海域を対象に将来予測を行ったところ、サンゴが継続して成長すると波高低下率が増大し、沿岸災害リスクの低下につながることが明らかになったと発表した。
サンゴは外洋からの高波を減衰させる天然の防波堤として沿岸災害リスクの低下に重要であることは知られている。現在120以上の国と地域にサンゴ礁があり、それらの地域ではサンゴ礁によって23万㎞以上の海岸線が守られ、1億人以上の人々が沿岸災害のリスクから守られているとされる。
日本では、和歌山県のようにサンゴ礁が発達していない温帯域のサンゴや、サンゴ礁が発達している沖縄県と鹿児島県のサンゴがよく知られているが、これらのサンゴが将来においてどの程度波を砕くのかは明らかになっていない。
そこで研究グループは、サンゴが波を砕く指標として波高低下率に注目し、国内3県のサンゴによる波高低下率について将来予測を行った。予測では、外洋の波高と、海岸線から50mの地点の波高を比較した値を波高低下率とした。例えば、波高5mの波が1mに低下した場合、波高低下率は80%となる。
調査の結果、現在の和歌山県のサンゴの波高低下率は70%以上、沖縄県と鹿児島県では80%以上だった。
2100年までの将来予測では、礁嶺が低潮位時に干出している沖縄県石垣島、同県久米島、鹿児島県奄美大島の3地点ではサンゴの成長が継続しても停止しても波高低下率は80%以上が維持された。
礁嶺の高さが低潮位時の海面とほぼ同じである沖縄県伊計島と、サンゴ礁が発達していない和歌山県串本町では、サンゴの成長が継続すると、停止した場合と比較して波高低下率は有意に増加することが明らかになった。
今回のような波高低下率を用いた研究例はまだ少なく、サンゴの種類や量のモニタリング、詳細な地形データの取得、サンゴの成長可能余地の調査などが不可欠という。今後、波高低下率に着目した研究が進展すれば、沿岸災害リスクの低下に向けた大規模コンクリート工事の見直し、建設・維持コストの抑制などにつながることが期待されるとしている。



