不思議なスライムの「ふにゃふにゃ」を科学的に解明―センサーや生体材料、アクチュエーターへの応用につながるか:多摩六都科学館/総合科学研究機構/高エネルギー加速器研究機構
(2025年8月28日発表)

スライムの様々なふるまい (論文P13「超延伸性スライムの創成と物性」より)
(a)握る、(b)流れ落ちる、(c)両側から伸ばす、(d)垂らし、糸の様に流れ落ちる、(e)ひろげる、(f)瞬間的に力を入れ切断
(画像提供:佐々木 有美)
手で握ると「ぷにゅぷにゅ」「ねばねば」と独特の感触をもつスライム(粘液)は、子供達に人気の玩具の一つ。不思議に満ちたこの物質を、多摩六都科学館と総合科学研究機構(CROSS)、高エネルギー加速器研究機構(KEK)の研究グループが挑み、数値化に成功したと8月28日に発表した。
スライムはおもちゃや科学工作などに使われ広く知られているものの、その性質を表す科学的な定義はなく、物理的にも解明されていなかった。
洗濯糊(ポリビニルアルコール)にホウ砂などを加えて作る。これにグリセリンや木工用ボンド、糖類などを加えると伸びやすくなり、「超延伸性スライム」になることが知られている。
研究チームはこのふにゃふにゃとした掴みどころの無い感覚的なものを、「レオロジー(粘弾性の科学)」と「核磁気共鳴」を使い分子レベルでの解明に挑戦した。
レオロジーとは物質の変形と流動性を扱う学問で、核磁気共鳴(NMR)は物質を構成する原子の一つ一つの状態や原子同士のつながりも分かる測定法になる。
研究チームはスライムに別の材料を組み合わせ75種類のスライムのレシピを試作した。
植物由来のグアー豆から作られる「グアーガム(GG)」にホウ砂を混ぜた物は、強く引っ張ると10m以上伸びる驚異的な特性(超延伸性ハイドロゲル)を持つことがわかった。
グリセリンを加えると、よく伸びて手にベタつかないなどの性質が現れ、柔軟性や弾力性が増え、剥離(はくり)しやすくなった。また木工用ボンドを加えると粘弾性が低下し、再結合しやすくなることが明らかになったとしている。
分子サイズでスライムの内部構造を推定すると、想像以上に網目が大きく、スカスカな構造でゆるく繋がったネット構造をしている。にもかかわらず水分子はネットの中に閉じ込められてスライムからこぼれないなど、不思議な性質が数多く見つかった。
今回使ったグアーガムは、食品にも使われている安全性の高い天然物質だけに、不思議な機能が解明されれば新たな機能性材料として「センサー」への応用も考えられる。電気信号やエネルギーを物理運動に変換できる「アクチュエーター」、生体材料などへの幅広い応用が期待されている。

(論文P24「超延伸性スライムの創成と物性」より) (画像提供: 佐々木 有美)
【解説参考】
・多摩六都科学館「ロクトリポート」スライムの論文が公開されました!