再発しやすい乳がん―免疫細胞が転移促進役も:筑波大学ほか
(2025年9月1日発表)
筑波大学と昭和医科大学は9月1日、乳がんの中でもとりわけ進行が早く再発・転移しやすいタイプの乳がんの細胞内で起きている現象を分子レベルで解明したと発表した。通常ならがん細胞や異物を攻撃するはずの免疫細胞にがん細胞が働きかけ、自らに有利な環境を作っていることを突き止めた。新しい免疫療法の開発などにつながると期待している。
がんによる死因の大半を占める転移は、腫瘍を取り巻く微小環境の変化によって引き起こされる。特に、乳がんの中でもトリプルネガティブ乳がん(TNBC)と呼ばれるがんは、とりわけ進行が早く再発や転移の多いことが知られている。そこで研究チームは今回、この乳がんを対象に細胞内で何が起きているかを分子レベルで詳しく調べた。
その結果、がん細胞の中で作られる「GPNMB」という糖たんぱく質が免疫細胞のマクロファージに働きかけていることが分かった。本来ならがん細胞や外敵を攻撃するはずのマクロファージが、この働きかけによって免疫作用を抑えられていた。それどころか、がん細胞が他の臓器に浸潤する性質を高めるなど、むしろ転移を起こしやすくするのに一役買っていたことが明らかになった。
そこで、これらの成果をもとにマウスを用いた動物実験を試みた。がん細胞内に作られる「GPNMB」に相当する糖たんぱく質を他の細胞が受け入れないようにしたところ、肺への転移が明らかに減少するなどの効果がみられたという。
これらの成果について、研究グループは「免疫抑制性マクロファージと腫瘍の転移を制御する分子経路を明らかにし、トリプルネガティブ乳がんの進行に深く関与していることを示した」としている。今後、新たな免疫療法や薬剤開発などにつながると期待している。



