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タイヤ由来マイクロプラスチックによる環境汚染状況を解明―沿岸海域などの堆積物中に蓄積されていることが判明:国立環境研究所ほか

(2025年8月22日発表)

 (国)国立環境研究所と(国)産業技術総合研究所、愛媛大学の共同研究グループは8月22日、自動車のタイヤが摩耗することで生じる「タイヤ由来マイクロプラスチック」による汚染状況を解明した、と発表した。

 マイクロプラスチック(MPs)とは、大きさが5mm以下に細かくなった微細なプラスチックのこと。発生源はさまざまだが、タイヤと道路の摩擦で発生する合成ゴムと天然ゴムからなる粒子のことを「タイヤ由来MPs」と呼ぶ。

 日本のMPs流出量は、年間約1.1万~2.4万t(トン)といわれている。環境省は、その24~85%をタイヤ由来MPs粒子が占めているものと見積もっており、それが道路から河川などに流入して海に流れ込めば生物の生態系を壊す恐れがあると心配され、我が国だけでなく世界的な問題になっている。

 しかし、発生したタイヤ由来MPsが環境中でどのように移動し、どこに蓄積されているのかといった実際の汚染状況の知見は限られ、環境中の挙動は未解明の状況にある。

 今回の研究は、水底の砂や泥からなる堆積物試料を北海道から沖縄までの10の地域(北海道、岩手、山形、宮城、東京、広島、山口、高知、福岡、沖縄)の沿岸海域と、長野県の諏訪湖(淡水湖)の36地点から採取して、熱で試料を分子レベルにまで分解し熱分解ガスクロマトグラフィー質量分析装置でタイヤの代表的構成成分である天然ゴムと合成ゴムを定量し、タイヤと道路面との摩擦でできる粒子の重量を求めた。

 その結果、タイヤ由来MPsは、36地点中32地点の堆積物試料から検出され、その内の30地点の濃度が生物への毒性が無いとされる限界の濃度(予測無影響濃度)を超過していた。

  また、道路で発生して河川などに流入したタイヤ由来MPsは、泥や有機物と共に水流に乗って輸送されることにより沿岸海域などの堆積物中に分布し、水流が強く泥の堆積があまりない所では堆積物中への蓄積が限定的で、広範囲に分散している可能性があることが分かった。

 タイヤ由来MPsと泥や有機物などとの相関関係を明確に示したのは今回の研究が初めてだという。

 こうした結果が得られたことからタイヤ由来MPsの粒子は、川を通じて海や湖に運ばれて泥や有機物と共に沈殿し堆積物中に蓄積されていることが分かったとし、蓄積が進行していると研究グループは見ている。