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トマトの「おいしさ」を測る装置の開発に成功―AI使い食べずに非破壊で瞬時に計測:農業・食品産業技術総合研究機構

(2021年6月28日発表)

(国)農業・食品産業技術総合研究機構は6月28日、トマトの「おいしさ」を非破壊で計測できる装置の開発に成功したと発表した。AI(人工知能)を利用して実現した。人がトマトを食べた時に感じる食味や食感を食べずに非破壊のまま知ることができ、トマトに光を照射するだけで甘味、うまみ、ジューシー感、硬さ、といったおいしさの特徴と、赤い色素リコピンの含量を瞬時に表示できるという。

 青果物の生産・流通・消費を最適化するには食品が持つ様々な品質をデータ化する必要がある。なかでも「おいしさ」は消費者が最も重視する品質。しかし、現状は食べてみて人の五感によってチェックするいわゆる官能評価に頼っているのが実態で、品質情報の生産側へのフィードバックが十分になされていないという問題を抱えている。

 こうしたことから波長700~2,500㎚(ナノメートル、1㎚は10億分の1m)の目には見えない近赤外光を青果物に当てて光の吸収度から糖度や酸度を測る光センサーが市販され、近年はその光センサーの反射光や透過光のスペクトル(波長分布)情報をより多様な品質計測に利用しようという研究が進んでいる。

 今回の研究は、農研機構が農水省の委託プロジェクト「国産農産物の多様な品質の非破壊評価技術の開発」に応えようと、光センサーによるおいしさ評価の可能性開拓として取り組んできたもので、試作した装置は市販の可搬型光センサーを使用。人が食べて感じるトマトの食味や食感を「多変量解析」と呼ばれる手法を用いたAI技術で光センサーに学習させるという方法を開発して完成させた。

 研究グループはトマトの官能評価の実測値(実食評価値)と光センサーによる推定値とを比べているが、甘味、うま味、ジューシー感、かたさ、なめらかさ、などに高い相関が見られ、食味・食感を無人で定量化できることが分かったとし、「食品のおいしさを簡便かつ客観的に評価できる可能性が示された。誰でも簡単においしさを測ることができる試作機を完成させることができた」と話している。

 今後は実際においしさという評価軸が食品の商品価値にどのような影響を及ぼすのかを明らかにしていく計画で、それを検証する実証試験を予定している。