ニホンナシのミルキーな香り成分物質を特定―風味豊かな果物の育成につながり、付加価値が高まる:農業・食品産業技術総合研究機構
(2025年8月5日発表)
(国)農業・食品産業技術総合研究機構 高度分析研究センターの研究グループは8月5日、ニホンナシに含まれるミルキーな香りの重要な成分が「γ―デカラクトン」であることを突き止めたと発表した。香り成分の探索は、優れた風味を持つ新たな品種の育成や栽培、貯蔵技術の開発につながると期待される。
香りは、果物のおいしさや品種らしさの重要な決め手となる。最近では、農作物に「甘味」や「酸味」に加えてさらに「香り」の概念も導入し、注目されるようになった。
リンゴやブドウ、カンキツ類では、すでに風味の特徴と味や香りの成分の関係が解析され、新たな品種改良がなされている。
ニホンナシの香りは一般にさわやかでグリーンな特徴を持つが、リンゴやイチゴに比べて品種間の違いが小さいため、香りの特徴と香気成分の構成の比較研究や品種育成はほとんどなされてこなかった。
最近になって、ほのかにミルキーの甘い風味を持つニホンナシが現れた。2025年3月に品種登録された「蒼月(そうげつ)」で、これを機にニホンナシの香り成分が注目されるようになった。
研究グループは、代表的なニホンナシ品種とミルキーな香りを持つ「蒼月」や「秋麗(しゅうれい)」など28品種、系統の香気成分の本格的な探索に着手した。
訓練された官能評価の専門家が香りや味、食感などのデータを統計的に解析し、ミルキーの強さの評価を実施した。同時にガスクロマトグラフィーと呼ばれる分析器を通して抽出した香気濃縮物を識別し、ミルキーな香りの正体を探した。
その結果、「γ―デカラクトン」が共通して存在することを突き止めた。これはモモやココナッツ、キンモクセイ、和牛など多くの食品の風味や花の香りの重要成分として知られており、微量でも感知できる。
重要な香気成分が特定されたことによって、さらにこの成分を作り出す遺伝子の特定につなげる。これができれば新たな品種の選抜や栽培管理技術への応用が可能になるとしている。