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日本と台湾の天然ヒノキは100万年前に分岐したと遺伝的に解明―タイワンヒノキと北限の福島のヒノキは遺伝資源として保全が必要:筑波大学

(2025年10月3日発表)

 筑波大学 生命環境系の相原 隆貴 研究員らの研究グループは10月3日、ヒノキ(日本)とタイワンヒノキ(台湾)は遺伝的に明確に区別され、約100万年前に地続きだったのが琉球列島として分断した時期に、分化したと発表した。日本のヒノキ集団は全般的に増えているものの、北限の福島のヒノキ集団と南限の屋久島のヒノキ集団は独自の遺伝的特性を持つため保全の優先度が高いと指摘している。

 ヒノキの仲間は、東アジアと北米の温暖、湿潤な地域にのみ残存している。木目が美しく、加工にも優れることから優良建築材として扱われ、日本の造林面積と素材生産量はスギに次いで2位を占める。  

 しかし天然林の多くは急峻(きゅうしゅん)な山岳地の中腹や尾根筋に点在するだけで、樹齢千年を超える巨木はほとんどが姿を消している。

 研究チームは、福島県から屋久島まで点在するヒノキと、ヒノキの変種として位置付けられるタイワンヒノキの全分布域を集団遺伝学の手法で調査した。

 DNA配列の一つの塩基が他の塩基に置き換わる「一塩基多型」という現象を手がかりに、各地域集団の遺伝的特性や遺伝的多様性、地域ごとの集団の分化状況を地質学的な時間軸で調べた。

 その結果、ヒノキとタイワンヒノキは約100万年前(第四期更新世初期)に分岐したと推定した。かつて九州南端から台湾にかけては地続きだったもののその後、島が連なる孤島列島(琉球弧)に分断された時期に両者が遺伝的に分れたとしている。

 それぞれのヒノキの環境データ(地形、植生、気候など)から、タイワンヒノキは寒冷で冬に降水量が多い環境を好み、ヒノキは温暖で夏に降水量が多い環境を好むという異なる環境適応をしてきた。

 日本国内のヒノキは、遺伝的に「屋久島」「本州中部以西」「本州中部以北」の3地域に区別された。

 ヒノキは日本の林業種苗法によって気候条件の違いから区分されているが、今回の研究で気候条件の違いではなく遺伝的な分類による区分で種苗移動を規制する必要があるとしている。

 福島県の北限集団と屋久島の南限集団は遺伝上の特徴から保全の優先順位が高いとしている。