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廃棄太陽光パネルから希少元素「アンチモン」を回収―温和な実用プロセスを開発:産業技術総合研究所ほか

(2025年9月29日発表)

 (国)産業技術総合研究所と中部電力(株)の共同研究グループは9月29日、太陽光で発電を行う太陽光パネル(太陽電池パネル)の表面を覆っているカバーガラスに含まれる希少元素の一種「アンチモン」(Sb)を回収する温和な実用プロセスを開発したと発表した。家庭の屋根などへの普及が進んでいる太陽光パネルは将来廃棄物となって大量に出ることが予測されており、それに備えての重要鉱物資源アンチモンの回集・再利用技術になることが期待される。この研究成果の詳細は、10月30日、31日の両日開催される中部電力の「テクノフェア2025」で公開するという。

 太陽光パネルが日本で急増しだしたのは2010年頃からだが、2023年の発電量は10年前の3倍強にまで増えていて、資源エネルギー庁によると日本の太陽光発電の設備容量は2022年の時点で世界3位にあるという。

 この拡大ペースは、今後さらにアップすると見られ、政府も導入推進を打ち出している。

 そこで、今後の課題の一つになるのではと心配されているのが、廃棄される大量の太陽光パネルのカバーガラスに添加されているアンチモンを回収する問題。

 太陽光パネルの耐用年数は、20~30年とされていることから日本では2030年代後半にも大量の数の太陽光パネルが廃棄される時代を迎えると見られているが、太陽光パネルの多くはシリコン表面を覆うカバーガラスにアンチモンを添加して透明性を高めている。

 ところが、そのアンチモンは、主に中国で産出される鉱石に含まれ、日本はほぼ全量を輸入に頼っている状況にある。

 しかも、アンチモンは、太陽光パネルのカバーガラスだけでなく合金、半導体、蓄電池など幅広い分野に使われている重要鉱物資源であるため、中国はアンチモンの輸出時に政府の輸出許可証を必要としている。

 研究グループは、こうした情勢に貢献できるようにしておこうと新しいアンチモン回収・再利用技術の開発に取り組んだ。

 開発した方法は「水熱処理」と呼ばれ、100℃以上、1気圧以上の高温・高圧状態の密封容器に粉砕した粉末状のカバーガラスを入れ、水と混ぜて攪拌しながら1時間から6時間水熱処理し、得られたスラリーを遠心分離で液体と粉末に分けるというもので、溶出したアンチモンは液相中に留まり続ける。

 一般的な圧力容器の設計温度以下で処理でき、研究グループは「工業的に十分実現可能な温和な条件下でアンチモン含有成分を効率的に抽出できる」といっている。

 アンチモンは、処理時間が長いほど抽出率がアップする傾向を示し、6時間処理でアンチモン抽出率が86%になる結果を得た。