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細菌同士で遺伝子交換―進化に重要な役割も:理化学研究所

(2025年10月2日発表)

 (国)理化学研究所は10月2日、細菌が分泌する直径1万分の1mm程度の微粒子「細菌膜小胞」に含まれる遺伝子が細菌の進化に重要な役割を果たしてきた可能性が高いと発表した。これらの遺伝子には細菌がヒトやウイルスと相互作用するのに重要なものが特に多く含まれており、細菌がそれを互いに直接やり取りすることが細菌の進化に重要な役割を果たしてきた可能性が高いとみている。

 理研の高野 壮太朗 開発研究員のほか、(国)物質・材料研究機構、筑波大学、九州歯科大学の研究者が参加した共同研究グループが注目したのは、歯周病原因菌の一つとされるPG菌。

 今回の研究では、この菌の培養液から細菌膜小胞のみを回収、内部のDNAだけを増やしてそのDNA配列を解読した。それによって染色体のどの領域に存在するDNA配列が細菌膜小胞の中に多く存在しているかを明らかにした。

 さらにPG菌と近縁な約300種の細菌の系統樹を作って解析したところ、それぞれの細菌の細胞膜小胞にある特定の遺伝子群「CRISPR-Cas遺伝子クラスター」の類似度に不一致がみられた。そのためこの遺伝子群が、進化の過程で親から子へ受け渡される通常のルートではなく、同時期に存在する細菌の間で受け渡された水平伝播である可能性が強く示唆されたという。

 これらの結果から、研究グループは「今後こうしたアプローチをさまざまな環境由来の細菌膜小胞に適用することで、これまで見つかっていなかった未知の水平伝播遺伝子やメカニズムの解明につながる」「将来的には細菌膜小胞を利用することで、ヒト細菌叢の免疫反応を引き起こす免疫原性を制御できる可能性も秘めており、疾患治療への応用可能性についても期待できる」と話している。