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繰り返し貼ってはがせる高分子接着材料を開発―ホストーゲスト錯体の形成を制御することで実現:大阪大学/高エネルギー加速器研究機構ほか

(2025年10月6日発表)

 大阪大学と高エネルギー加速器研究機構、J-PARCなどの研究グループは10月6日、繰り返し貼ってはがせる高分子接着材料を開発するとともに、新接着剤の接着・はく離のメカニズムを解明したと発表した。複合材料製品における分別回収・リサイクルや機器組み立て時の不良の修復・低減などが期待されるという。

 接着は自動車、電子機器、建築などあらゆる産業を支える基盤技術であり、日常生活でも広く用いられている。これまでの接着剤はいったん貼るとはがしにくく、リサイクルや修理・部品交換が妨げられていた。

 研究グループは今回、リサイクル可能な接着、再利用可能な接合技術の開発に取り組み、「ホストーゲスト」と呼ばれる分子の組み合わせを利用した、オンデマンドに分解可能かつ繰り返し使用できる接着剤を開発した。

 ホストーゲストは分子の“カギ穴(ホスト)とカギ(ゲスト)”にあたり、ホストと呼ばれる分子の中にゲストと呼ばれる別の分子が入り込むことでできる特別な組み合わせを指す。カギ穴とカギのように、形や相互作用がピッタリ合うことで安定した構造ができる。

 研究グループは高分子界面におけるホストーゲスト錯体の形成を制御することで、はがしたい時にはがせる易解体と、再接着とを可能にした。

 具体的には、ホスト、ゲスト高分子の化学組成を最適化し、高分子の運動性を調節することによって、接着界面におけるホストーゲスト錯体の形成制御を達成した。加えて、ホストーゲスト錯体を解離させる競争阻害分子を用い、接着強度の制御を可能にした。

 性能を調べたところ、接着とはく離を5回繰り返しても90%の接着強度を維持した。競合阻害分子トルエンを添加すると、接着強度は元の15%まで減少し、容易にはがすことができた。競合阻害分子を除去すると接着強度は76%まで回復し、再接着できた。

 こうした作用のメカニズムはこれまで十分理解されていなかったが、研究グループは中性子を物質の表面に照射して界面の構造を原子・分子レベルで調査できる中性子反射率法という手法を用い、新接着剤の界面を測定、錯体形成が高分子鎖の拡散を抑えることに反して接着は強くなるという、一見矛盾する現象を世界で初めて明らかにした。

 今回開発した新接着剤は、接着した部材の分別回収が可能なだけではなく、接着剤自身も繰り返し利用・リサイクルできるという特長がある。経済的価値の創出と資源循環の両立が期待されるとしている。