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たんぱく質の水溶性―電磁波で改変:産業技術総合研究所ほか

(2023年5月22日発表)

 (国)産業技術総合研究所、東京大学などの研究グループは5月22日、特定の周波数領域の電磁波を照射することでたんぱく質が水に溶けやすくなることを突き止めたと発表した。たんぱく質の機能を改変したり酵素の反応を活性化したりして飲食料品の保存・熟成技術などに役立てられるほか、体内のたんぱく質異常によって起きる病気の治療法の開発などにもつながると期待している。

 研究グループには、産総研、東京大学のほか筑波大学の研究者も参加した。今回の研究では、まずマイクロ波と赤外線の中間領域の電磁波であるサブテラヘルツ波を乾燥したたんぱく質を混ぜた水に照射すると、水分子の運動が活発化してたんぱく質の溶けやすさ(水和状態)が変化する現象を見出した。

 そこで、たんぱく質として乾燥した卵白リゾチーム粉末を用い、このリゾチーム粉末が水に混ぜられてから溶けた状態になる(安定した水和構造ができる)までの様子を誘電率の変化として詳しく調べた。

 その結果、通常は数時間から1日程度の時間が必要なリゾチームの水和構造の安定化が、サブテラヘルツ波を照射するとわずか数分で終了することが分かった。これらの結果から、生体分子と相互作用する水のミクロな性質を理解し、制御することができれば、次世代の生物機能改変技術になる可能性もあるという。

 そのため「酵素を改変せずにより高速に酵素の機能を高める技術や、ゲノム情報を変えずに生物の物質生産能を高める技術、水和の障害によるたんぱく質異常疾患に対する医療技術、飲食品の熟成などの技術の開発につながる」と、研究グループは期待している。

 

水と乾燥したタンパク質を混合した直後、水中では水分子同士の結合(水素結合)ネットワークが崩れる(左図)。その後、電荷との強い結合を外してネットワークを作り替えるなどして安定な水和構造が形成される(右図)。サブテラヘルツ波を照射するとその変化に要する時間が短縮されると考えられる。アミノ酸側鎖にある正電荷を+、分子間・分子ーイオン間の相互作用を・・・で示す。(提供:産業技術総合研究所)