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有機トランジスタの動作時の電子の動きを初めて可視化―フェムト秒レーザーパルスの光電子顕微鏡を用いて観測:高エネルギー加速器研究機構ほか

(2022年6月21日発表)

 高エネルギー加速器研究機構(KEK)と筑波大学の共同研究グループは6月21日、有機半導体中の電子を高効率で検出できるフェムト秒光電子顕微鏡装置を作製し、有機トランジスタが動作するときの電子の動きを可視化することに初めて成功したと発表した。トランジスタの動作原理を電子の動きを通して明らかにできるため、デバイス開発の効率化が期待できるという。

 トランジスタをはじめとした各種の半導体デバイスは、電荷キャリアの電子と正孔が動くことで動作しているが、これまで電子の動きを直接見る技術は無く、電子の動きを電気的に捉えることによってデバイスの動作を理解してきた。 

 研究グループは、フェムト(10-15)秒の時間幅で発振するフェムト秒レーザーパルスを光源とする光電子顕微鏡装置を用いることによって、半導体内の伝導電子を高効率で検出する手法を開発、今回この手法を応用して、有機トランジスタの動作下での直接観測を試みた。

 測定したのは、アンチアンバイポ-ラートランジスタと名付けられた、室温で負性抵抗を示す有機トランジスタの電子の動き。この負性抵抗トランジスタにおいては、n型半導体とp型半導体が形成する半導体界面が、電子の流れを制御する空乏層(くうぼうそう)と呼ばれるバブルに相当する。空乏層はいわば半導体デバイスの心臓部。

 観測の結果、空乏層を介して電子がn型からp型へ流れている様子や、空乏層が電子の流れを遮蔽(しゃへい)するように働いている様子などを可視化することに成功、電子の分布を可視化して空乏層の役割を明確にすることでトランジスタの動作原理を明らかにした。

 今回の手法を活用することにより今後デバイス開発のスピードアップが期待されるとしている。